おかーさーん!麦茶ふたつ持ってきてー!『ヒメアノ〜ル』

ヒメアノ〜ル』をレンタルDVDで鑑賞。
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大・傑・作!!!!!

とんでもない、とてつもない映画だった。観た後すぐには動けなくなるくらいの余韻を喰らったのは久々かもしれない。

映画はまずある一組の男女が恋人同士になるまでの過程を丁寧に描いていく。バイト先の先輩が好きになった女の子との仲を取り持つために奮起する主人公であるが、なんとその主人公に彼女が惚れてしまったからさぁ大変。先輩のこともあってふたりは先輩には内緒で付き合うことになるのであった……

と書くとどこかで聞いたことがあるような恋愛ストーリーになるのだが、この映画はそこにひとつ「偶然に出会った森田というかつての同級生」の存在をレイヤーとして敷くことで、このふたりが近づけば近づくほどに不安感/恐怖感が増していくという手法をとっている。画面上ではとてもほほえましい男女の恋物語なのに、それがどうもそのように見えない……いや、見えてるんだけど、そう感じない。先輩がいることでその不安感をひとつ煽っているのだが、それはあくまでフリの段階であり、それとはもうひとつ違う得体の知れない何かがその恋愛を支配するようになっている……

これはうまい!!!!!!

そしてその恋愛が成就したとき「いいか、お前ら、ここからが本番だ!覚悟しろよ!」と言わんばかりに絵に書いたような不穏な音楽と共にタイトルがでる……このかっこよさ!!!この1時間弱に及ぶアバンタイトルから映画は急転直下。しかし、それまでフィックスで原色も使いキチッと撮っていた画がグラグラと不安定に揺れ動き、色彩もノワールのようなグレーがかった色味になる!そして物語が加速していく!!!

そこからの展開は……もういろんなところで語られているが、陰惨極まりないジャック・ケッチャムのような世界で、どんづまりの状況から殺人に向かうという意味では逆“アメリカン・サイコ”ともいえる。もうこのあたりはまともに画面を正視するのもツライほどで、ラスト付近なんかはノドがカラッカラになるくらいのハードさ。

しかし、この映画が真にすごいのはラストにある。

ラスト「おかーさーん!麦茶ふたつ持ってきてー!」という言葉と共に広がる光景で極悪非道な展開がすべて浄化され、森田の人生でいちばん幸福だった瞬間がホントになにげない普遍的な風景だったことに観客は涙し、彼はこの時から時間が止まってしまったことを知るのであった………

「おかーさーん!麦茶ふたつ持ってきてー!」……この言葉を思い返すだけで泣きそうになるなんて……かつてこんな映画があっただろうか?「おかーさーん!麦茶ふたつ持ってきてー!」……ああ……こうして書いてるだけでまた涙が……うう……

ヒメアノ~ル 豪華版 [Blu-ray]

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