NGTの曲がかかっても違和感ない『全員死刑』

全員死刑』をレンタルDVDで鑑賞。
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近くのレンタル屋さんに『孤高の遠吠』がなかったので観れず、結局小林勇貴監督の作品にはじめて触れたのはNGT48の『春はどこから来るのか?』のMVなんだけど、これがまぁかなり衝撃的な内容で、特報の映像も含め「オレ!小林勇貴が監督してるっす!」という刻印がいたるところにあり、さらにド直球なアイドルソング石井岳龍の『爆裂都市』をやるという対位法を使った映像表現がヲタの間でも賛否両論を巻き起こした(どちらかと否の方が多かったかも)。一見、奇を衒い好きなことをやったように思えるが、ぼくはあの作品……『爆裂都市』が元々持っていたパンク的なアティチュードを際立たせるという批評的なスタンスがそこにあったのかなと思えて大変おもしろく観たクチ。で、その話を映画好きの後輩にしたら「あー、あの監督、間違いなく石井岳龍に影響受けてますよ『孤高の遠吠』なんて『狂い咲き』っぽかったですもん」と言っていたので、あながち間違いではないのかなと思ったりもした。

で『全員死刑』なんだけど、これ、大牟田4人殺害事件を題材にした実録犯罪モノであるにもかかわらず、テンション的にはそのNGTのMVとほとんど変わらない。なんならこの予告編映像に合わせて「春はどこから来るのか?」が流れ出しても違和感ないような作りで、恐らくこの人、どんなジャンルを撮ったとしても小林勇貴然として作品が成立してしまうというか、それこそ『俺は園子温だ!』とか“劇団、本谷有希子”のような、その個人が主張してくるような映像作家としての確固たるビジョンが若くしてあるなと思った。

なので、同じ実録犯罪モノとして白石和彌監督の『凶悪』あたりを想像すると肩すかしを喰らうはずである。どちらかというと内容的にも表現的にも三池崇史の『牛頭』や『ビジターQ』ラインであり、手作り感溢るるキッチュさと笑っていいのかどうか分からないエクストリームな演出が全体を覆う。だからこそ映画評論家の町山智浩も絶賛したんだと思うが、あのあたりを生理的に受け付けないのであればこの映画を好きになることはないはずなので、そのあたりは覚悟して鑑賞していただきたい(それこそ三池監督でいえば『DEAD OR ALIVE』オマージュみたいなことをyoutuberディスと共にやってのけるという離れ業も披露している)。

そして、こんなハチャメチャで無茶苦茶な破綻ギリギリの内容であるが、実は事件や犯人の手記自体がそういった、ちょっと浮世離れした感じで、わりとそれに忠実に映像化しているというのだから驚く。一見シュールに見えるところも実際がそうだったということが多く、ウィキペディアを見ても事件の顛末までの流れはほぼ一緒で、親父が最後にとる行動も場所こそ違えどホントにそうだったということが後にわかった(というか実際の事件の方がもっとトンでもない場所だったりする)。その意味でも「映画的にはぶっ壊れてるが、それは原作がそもそもそうで、それを忠実にやっただけ」という宮藤官九郎の『真夜中の弥次さん喜多さん』にも近いのかもしれない。

ハッキリいうと、ちょっと地に足が着いてないというか、やりすぎだろと思わなくもないが、じゃあだからって通り一遍な映画を撮ったところで凡百の実録犯罪映画の一本として埋もれていくだけなので、これからも小林勇貴小林勇貴然とした映画を撮り続けてほしいなぁと思う次第なのであった。いろんなサイトでの評価はそこまで高くないがおもしろかったし、なんなら秋元康サイドがOKだすのならば、NGT48のMVもまたお願いしたい所存である。まぁ監督の方がお断りするんだろうが。

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