山崎貴、12年振りの傑作『寄生獣』

寄生獣』鑑賞。かなり前にテレビで放送されたバージョン。

言わずもがなの超人気漫画の映像化。山崎貴自身原作の大ファンで映像化されるされないの前から自身が所属する特撮会社で勝手にデモ映像を作っており、もし監督できなくてもなんらかの形で関わりたいと思ってたくらい念願だった企画。

原作を読んでるときの印象でいえば、大友克洋の『童夢』よろしく、普通の生活に入り込んでくる奇妙さといったものが根底にあり、そこにバイオレンスとグロ描写を青年誌用にアップデートして乗っけたバトル漫画という印象だったのだが、それがハッキリ映画としてのフォーマットに乗ると、あ、これ“ボディ・スナッチャー”だったんだなと気づかされたし、何よりも『ゼイリブ』感があるなと思った。この手のSFって日本で作っても違和感ないんだということを映画によって認識させられたといってもいいかもしれない。

特に今作では人物描写というか、キャラクターの関係性や立ち位置、セリフの組み立て方、演技指導とそれに応える役者の演技が良い。原作から抜け出してきたような時代錯誤感ある髪型の橋本愛はさておき、あからさまにライミ版『スパイダーマン』の演技メソッドを貼り付けられてしまった童貞臭い染谷将太。顔も体型も良いのに演技が致命的にヘタクソ(しかも一向にうまくならない)という部分を最大限に利用された東出昌大。実は冷徹な暗い容姿だということにやっと気づいて掘り起こされた深津絵里。笑顔が薄気味悪いピエール瀧。毎度同じ役での安定感、國村準などなど、各々が「海背川腹*1」的に調理されてる感じがよく出ている。

そしてミギーというキャラクターが完全に古沢良太と同化しており、いかにも『リーガル・ハイ』あたりに出てきそうな欺瞞に対する怒り、アンビバレントな思想に対する容赦のないツッコミが連発され、彼であることがいかんなく発揮されている(なぜこれが『エイプリル・フールズ』で出来なかったのが謎だ)のも特筆すべき点であろう。

あとおもしろいと思った点は観ていてノイズになったというか「あれ?これってこうなったらマズくない?なんでほったらかしとくの?もしかしてミス?」となんとなく観ている最中から頭のかたすみにあるボンヤリした謎をキッチリ自然に回収してくれるという点である。

例えば、主人公の染谷はあきらかに童貞でいきなり右手に奇怪な生物がくっついてしまうも、早々にわりとそれの状況を楽しんでる節があり、そこまで余裕があったらオナニーはどうするのか?という疑問も沸いてくるが、ちゃんとそういうところをツッコんでいるし、寄生生物を殺しておきながら凶器は指紋を残したまま現場に捨てたりして、そんなことしたら警察にマークされちゃうよ?と思うと、しっかり警察が指紋が残っていることを分かっているなど、気持ちよくQに対するAがなされている。これが意外とできてない映画も多いのだ(というかオナニーのくだりは原作にあるっぽいのだが、だいぶ前に読んだっきりで完全に忘れているし、山崎貴はそこをばっさりとカットしても平気だよーんとか思ってるクソバカ野郎なのでむしろ関心した)。

もちろん、血しぶきや切株&人体破壊描写はもっとやってくれよとも思うし、ちょっとクサいかなと思うような演技も散見されるし、そもそもミギーの回想という構成も最初よくわからなかったしで、気になるところもあるにはあるが、あの『ALWAYS 三丁目の夕日』で酒を飲んだ医者が帰りにスクーターを押して歩いて帰るという品行方正なトンデモ演出をし、さらには『BALLAD 名もなき恋のうた*2』で「金打」を削るという到底許しがたい改悪をした山崎貴の映画とは思えないほどはっちゃけてる。

そういう下がり切ったハードルがあったからともいえるが、まぁ上から目線で『リターナー』以来、12年振りの傑作といわせていただく。おもしろかったよ、山崎監督。

*1:海の魚は背中…皮から、川の魚は腹…身から焼けという意味。ちなみに逆のいい方もあり、その辺は曖昧

*2:タイトルも忘れたので「戦国大合戦 リメイク」で検索しちゃったい