暴力の是非を問わない“わらの犬”『アイアムアヒーロー』

Amazonプライムにて『アイアムアヒーロー』鑑賞。
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「あの『アイアムアヒーロー』を佐藤信介監督と、大泉洋で映画化だと!?『GANTZ』はヘッポコだったし、大泉に至っては主人公に似ても似つかないじゃないか!!!」という下馬評を大きく覆し、映画秘宝の年間ベストでは『シン・ゴジラ』と『この世界の片隅に』に次ぐ4位になったが(5位は黒沢清の『クリーピー 偽りの隣人』でこれまた邦画)、それも観て納得した。

脚本はこの後『逃げ恥』で大ブレイクすることになる野木亜紀子。原作はゾンビ・パンデミックがフランスにまで蔓延してしまったというところまで書かれているが、当然そんなものは映像化不可能なのでカット。『ドーン・オブ・ザ・デッド』を彷彿とさせるパニック描写からの怒涛のカーチェイスを見せたあと、じっくりロードムービー化しながらあてもなく女子高生と逃げ続けるという部分も短縮、なので早々にショッピングモールに辿りついたと思えば、すぐにゾンビよりも人間の方が愚かで怖いという『死霊のえじき』よろしくのシーンになだれこみ、すぐにクライマックスとなる。

こう聞くと「はいはい、原作のダイジェスト版で原作読んだ方がいいっていうオチね」と思うだろうが、この脚色が実は大当たり。

そうしたことで映画では何が起こったかというと「なかなか暴力を振るえないヒョロヒョロの情けない男が、目の前でどんどん人が死んでいく様が怖くて逃げだすも、逃げだした先でこれ以上ないくらい追いつめられた結果、ある人を守るために襲いかかってくる者を皆殺しにする」という『わらの犬』的な展開の映画に様変わり。

しかも襲ってくるのが人間じゃなくゾンビなので、暴力の是非みたいなものは問わず、むしろ誰かを守るための“ヒーロー”として立ち上がるという、タイトル通りのテーマに行き着く。この部分は原作でも描かれていたが、その一点に絞ったことでそれがより明確になったといえる。

その“タメ”によって放たれるクライマックスは猟銃で人体が吹き飛ばされる様だけを延々描き続ける一大グランギニョール。まぁこの辺はいろんな人が感想を述べているのでこれ以上は言うまい。

大泉洋はやや演技にやりすぎなきらいはあるものの、他に鈴木英雄を演じられる人が見つからないかもしれないレヴェルの化けっぷり。原作から抜け出してきたような有村架純の使い方はもったいなかったような気もするが、彼女が活躍するとクライマックスの見せ方がブレるだろうから正解っちゃ正解なのかも。

2016年といえば『シン・ゴジラ』と『この世界の片隅に』と『君の名は。』の年だったが、そこに隠れて思わぬ伏兵が潜んでたという感じ。もう一度観るか?と言われたら恐らく中盤のアクションとクライマックスだけ見返すんだろうが、それでもおもしろかった。傑作というよりは力作という部類かもしれない。おすすめ。