『アイアムアヒーロー』がすごすぎる!

巷で話題の『アイアムアヒーロー』をやっと4巻まで読んだ。

これはすごい!すごすぎる!

いきなり冒頭からなんなのよという感じだろうが、『アイアムアヒーロー』は自分の想像を遥かにこえた超ド級の大大大傑作であった。破壊や終末感でいえば『童夢』や『ワールド・イズ・マイン』『漂流教室』『ジャガランダ』はもちろんのこと、出だしだけだったら『20世紀少年』や『ドラゴンヘッド』とタメはる……いや、それ以上の興奮である*1。なるほど、いろんな人が熱く勧めてくれるわけだよ、これは。

設定自体はホントにホントに映画でよく見かける“ゾンビもの”なわけで『アイ・アム・レジェンド』や『28日後…』っぽいのだが、見せ方やアクション描写が映画的で他とは一線を画しており、まったく新しい作品として読めてしまう。

個人的に斬新だなと思ったところがいくつかある。


・延々続く日常

まるまる一巻費やして主人公の日常が描かれていくという構成がまず大胆であり、斬新なんだけど、テーマ的にもあっていて、普通“ゾンビもの”と言えば、ゾンビが出て来たことがすでに日常として描かれることが多く、映画でも冒頭で「ゾンビがワラワラとやってきました、噛まれると感染します」みたいなニュースが流れるところから始まるのが圧倒的である。故に普段暮らしている日常がゾンビの出現によって壊される!みたいな怖さをあまり感じたことがなかったのだが、『アイアムアヒーロー』では、恋人、職場、そして妄想といった日常が、ゾンビの出現によって徹底的に破壊されていく、ここが本当の本当に斬新な部分なのだ。一巻の最後までマンガらしいことは何も起きないというのは作者の思いつきだったかもしれないが、それが見事にハマった希有な例である。


・主人公が史上最弱

主人公は35歳にしてデビュー作に失敗し、アシスタントに逆戻りになってしまった漫画家なのだが、これがとてつもなくミジメでヘタレでどうしようもない男として描かれる。猟銃を持っているというのがフィクションっぽいのだが、この銃も前半ではまったく使わないという裏切りを見せてくれる。女子高生にはおんぶにだっこで、この世の終わりがやってきてもキセルが出来ずにSuicaを置いてあやまるようなホントに弱気な男。“ゾンビもの”と言えば、主人公の周りに警察関係の人がいたり、軍隊が絡んできて、その人たちと行動を共にして逃げるというのが定説であったが、今作ではそれを徹底的に排除し、さらにその主人公もまったく頼りないというのが斬新だ。


・走って、ある程度の意志を持っているゾンビ

ゾンビが走るというのはもうスタンダードになっているが、正直、走る必要あんのか?と懐疑的になっていて、走ったところでまったく怖くなかったのだが、『アイアムアヒーロー』ではこの走るゾンビがとても効果的で、初めて走るゾンビに怖さを感じた。大群で走って来ず、一人で逃げてる時に一体だけで追って来るという描写が多いのだが、これが非常に怖さを感じる。さらにある程度意志を持って喋るというのが斬新で、営業マンだったら営業マンのお決まりのセリフを言いながらゾンビ化していったり、のんきに好きな歌を歌い出して人間を八つ裂きにしたりするところが怖くていい。しかも人間のときの記憶が微かにあるというところがポイントで、普通なら噛まれてゾンビになることが分かってから感動するシーンに繋げるのだが、『アイアムアヒーロー』では、ゾンビ化してから感動するシーンに繋げるところが新しいと思った。


・かっこ悪いのにかっこいいアクション

このマンガの最大の特徴はアクションシーンの独創性にある。主人公と三谷さんというアシスタントが協力してゾンビを撃退したあと「ハリウッドみたいだ」とつぶやくシーンがあるが、このマンガに出て来るアクションの数々はハリウッド映画でも観たことないものばかりでかなり独創的である。主人公の性格や生活をまるまる一巻費やして描き込んだわけだが、その鬱憤をはらすかのような二巻の怒濤のアクション描写は「こんなの観たことない!」の連続。行動自体はかっこ悪いのだが、そのかっこ悪さが独創的で結果かっこいいアクション描写になっているのだ。


・恐怖描写

アイアムアヒーロー』は怖さの描写が多種多様で、すべての恐怖描写が出て来るんじゃないか?というくらい怖い。何かに襲われる恐怖だけでなく、世界の終わりから、対人間に立ち向かう恐怖、人を殺してしまうという恐怖、愛する人を失ってしまう恐怖などなど、とにかく怖さというところに徹底したこだわりがある。特にいつも誰かに見られているという妄想に取り憑かれ夜道もビクビクしながら歩くような主人公が、その妄想が出来なくなった時に真の孤独が訪れ、富士の樹海の中で今までに体験したことのない恐怖に打ち震えるという3巻の描写が圧倒的にすごい。


とにかくこんな能書きを読んでるヒマあったらすぐにでも2巻までは買って読め!と言いたい。心の底からおすすめ。こんなに心底おもしろい漫画にリアルタイムで出会ったのは久しぶりだ。というか、まぁ、他の有名なヤツ読んでないんだけど……全ての漫画読みは必読ですよ!あういぇ。

アイアムアヒーロー 1 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 1 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 2 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 2 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 3 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 3 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 4 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 4 (ビッグコミックス)


バクマン』とか『宇宙兄弟』とかも読まなきゃなぁ……

*1:というか、この二作品は張った伏線が……