新世代ゾンビ映画としてのパイオニア『28日後…』

ゾンビ映画大マガジン』を買ってパラパラと読んでいたら、昨今のゾンビ映画ブームは『28日後…』から始まったと書いてあった。

ちょーかっこいいティーザー!


もう9年前の作品だが*1、当時はネットもブログもしておらず、映画を観ることだけに狂っていたぼくが、「ダニー・ボイルの新作」ということ以外、なんの情報も入れずに映画館に観にいった。そしてエラい衝撃を受けた。

今でこそ冷静に観られるようになったが、当時はオールタイムベストが塗り替えられたとも思ったし、DVDは発売日に買って、何度も何度も観たし、いろんな人に無理矢理すすめた。何よりもゲーム以外でのゾンビを知らなかったぼくにとって、映画においてのゾンビの存在を強く意識させてくれたのがこの作品であった。とにかく観たそばからこれからのホラー映画は間違いなくこれが基準になるだろうとも思った。

実際、それを裏付けるように、この作品からは多くのフォロワーが生まれることになる。感染者として、全力疾走してくるモンスターとしてのゾンビの描き方もそうだし、無人のロンドンのビジュアルやPOVなど、斬新で革新的な要素がいくつかあった。

何よりもそれまでスタイリッシュ*2で小利口だったダニー・ボイルの演出はこの作品以降ハッキリと変わっており、『スラムドッグ$ミリオネア』や最新作の『127時間』は『28日後…』のスタイルを踏襲していると言える。

本を読んでから久しぶりにDVDで観てみたのだが、ロメロの諸作品や様々なゾンビ映画を観てから改めて観ると、実はこの作品は革新的でありながらもかなりオールドなゾンビ映画なんだなということに気付かされた。

まぁ、それなりに名が知れた映画ではあるので、あらすじは割愛させていただくが、一言でいってしまうとこの作品、ロメロのゾンビ三部作をものすんごいスピードでおさらいしているかのような内容なのである。


監視カメラの映像なのでは?と思わせる独特の構図とカメラワークはデジカムとの相性もあいまって、圧倒的なリアリティがあり、ゴミが散乱し、バスが横転しているという無人のロンドンを彷徨い歩く冒頭は映画の出だしとしてこれ以上ないくらいのインパクトを与える。『アイ・アム・ア・レジェンド』にも間違いなく影響を与えたであろう名シーンだが、その『アイ・アム・ア・レジェンド』の原作である『地球最後の男』はなんとゾンビ映画のパイオニアである『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』に多大な影響を与えた本なのである*3

もしかしたらオレ以外、この地球上には誰もいねぇんじゃねぇか的なオープニング


このように「夜明け」を描いているのもさることながら、ショッピングモールやピクニックでの休息は『ゾンビ』における「オアシス的」な要素を果たしているし、ガラッと映画のトーンが変わってしまう後半の軍人との一触即発のムードは『死霊のえじき』と類似している*4

何よりもウイルスによって感染者としてゾンビ的なものに変異してしまうとか、もっと言えばそのモンスターが走り出すというのは『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の続編と銘打たれた『バタリアン』にも通ずるものがあり、このことからも分かるようにジャンル映画としてのゾンビの歴史を一気に総括し、新しい物として見せようとしたことは明確だ。

全力疾走で襲って来ます!


確かにこの映画にはあからさまな欠点もある。前半と後半では著しくバランスは悪いし、人間からモンスターになるまでのスパンも短く、そのせいでゾンビになってしまうよぉ!という恐怖はなくなってしまったのは致命的とも言える。

目ん玉の中に血液がひとしずく入るとかものすごい確率だし、28日も昏睡状態に陥ってた男が軍人相手に勝てるわけないし、あれだけ終末感や絶望感を提示しておきながら、とってつけたようなハッピーエンドにはずっこけてしまうし*5、もっと言えば、真っ先にやられてしかるべき主人公がなんであそこで生き残っていたのか?という疑問は拭えない――――

とってつけたようなハッピーエンド。今観てもやはりメガださい!


そもそもこの作品をゾンビ映画としてカテゴライズしてもいいのか?という問題もある。死者が蘇ってくるという宗教的な世界観は排除されているし、人間を喰らうというよりは襲って来るという方が正しいし、生ける屍ではないので、肉体の腐敗はなく、ハッキリ言ってゾンビとは違うモンスターである。

そのことを差し引いてもやはり『28日後…』は文句無しにおもしろい。著しくバランスを欠いたのはゾンビ三部作をやろうとした結果であり、走るゾンビやPOVを使ったことで、サンプリングではなく、ジャンルの再構築として、ゾンビ映画を新世代のサバイバルアクション映画に生まれ変わらせることに成功した。実際この映画と『ドーン・オブ・ザ・デッド』がヒットしたことで、ゾンビ映画が再び大量生産されることになったのは周知の事実である。

というわけで、改めてゾンビ映画の可能性を広げた『28日後…』はなんだかんだ言って傑作。『アイアムアヒーロー』にも決定的な影響を与えているので、今このマンガにハマっている若者たちにも胸を張っておすすめしておきたい、あういぇ。

別冊映画秘宝 ゾンビ映画大マガジン (洋泉社MOOK)

別冊映画秘宝 ゾンビ映画大マガジン (洋泉社MOOK)

さらに続編は『28日後…』をグツグツ煮詰めて純化させたような大傑作になってるのだ!

参考資料:洋泉社MOOK 別冊映画秘宝 ゾンビ映画大マガジン

*1:月日が経つのは早いなぁ……

*2:もう死語だろうか

*3:本人は「パクリである」とまで言い切っている

*4:まぁ、この辺はそのゾンビ本での批評でも指摘されていたので後だしジャンケンになってしまうが…

*5:DVDではその後、幻のエンディングとして絶望バージョンが収録されるも、やはり希望をもたらすような晴れ晴れとした画はやっぱりどっかとってつけたようなもんだなと感じてしまうのであった