上映禁止も納得のすさまじさ『アイ・スピッド・オン・ユア・グレイヴ』

『アイ・スピッド・オン・ユア・グレイヴ』をUS盤ブルーレイにて鑑賞。

しかしカッチョよいティーザーだなぁ。

執筆のために田舎に訪れた女小説家が別荘を借りるところから始まる。あまりの田舎に目印がなく、道に迷ってしまうのだが、立ち寄ったいかにも怪しいガソリンスタンドで現地の男の誘いを断ってしまった結果、彼女は輪姦されてしまい、殺される寸前で川に飛び込む。遺体はあがらなかったが、とっくに死んだものと安心した男たち。ところが一ヶ月後に彼らが撮影していたテープや彼女のサンダルなどが自宅に送りつけられてくる……というのがあらすじ。

色を落したモノトーン調の画質にダルデンヌ兄弟さながらのカメラワークで恐怖を煽り、さらに引き絵やPOVなどを組み合わせた多彩な映像が特徴で、物語が動き出すまでに30分以上あるのだが、映画全体はホラー映画のそれのように撮られており、音楽も不協和音のようなキリキリとした効果音が続いていくので、凝った映像も相まって緊張感が持続する。

『悪魔のえじき』という映画のリメイクで、言ってしまえばレイプされた女の復讐譚なのだが、おもしろいなと思ったのは、加害者側にフォーカスをあてた後半のパート。

なんと、彼らは堂々と一人の女を犯して殺しかけたくせに、とてつもなく心配性で、事件を起こしたあとも「バレないかなぁ」「生きてたら何されるかなぁ」とビクビクし続けるのだ!『ヒーローショー』のあいつらに比べて、なんとも人間味溢れるかわいらしいヤツらなのだろうか!

さらにそれぞれのキャラクターのバックボーンが描かれ、加害者の中には普通に良きパパとして登場するヤツもいたりと、アイコンとして置いてるだけでないあたりもぬかりがない。つまりこの作品は前半と後半では物語の視点がハッキリ分かれており、それぞれが対になっているのである。

後半では彼女の視点や情念がいっさい描かれなくなるが、それは加害者側に視点がまわっているからで、妊娠している妻やかわいい子供が何をされるか分からない!という恐怖感を今度は味わうことになるのだ。

さて、そんなあたふたな加害者をひとり、またひとりと主人公が血祭りにあげていくのだが、ここがあまりに壮絶で、映画を見ながら気絶しそうになってしまった。拷問のファンタジスタ!拷問のマエストロ!拷問のギャルソン!と様々な名称で主人公を呼びたくなってしまうくらい多彩で創造豊かである。

とにかく痛い!痛すぎる!!あと目に何かするのだけはやめてくれ!

この作品、ヨーロッパでは大変な問題作として上映禁止措置がとられたらしいのだが、それも納得で、よくよく考えるとこの作品は始まってから1時間40分の間、「何かが起こりそうな感じをずっと体験させる」「驚かせる」「痛がらせる」しかないのだ。人によっては30分過ぎてからは目を背けたくなるシーンばかり続くともいえる。しかも前半は彼女がやられ、後半では彼らがやられる様を見せられるために、それぞれの視点からどっちつかずの恐怖と痛みを体験することになってしまうのである。

こんなにも胃がキリキリするような内容なのだが、映画は傑作だ。絵は重厚かつ映画的、復讐パートに入ると日活の映画のような前フリがあり、いよーっ!待ってましたぁ!と言いたくなってしまうが、きちんとアメリカンなホラーテイストで描かれるのも作り手の本気さとアイデンティティを感じさせてよかった。

というわけで人を選んでしまうかもしれないが、観られる環境にいる方はおすすめ。今年のベストテンに入れても問題ない作品だった。

ちなみにブルーレイには削除シーンがおまけとして入っていたのだが、この画質がまぁすごかった。大概こういう映画のおまけで付いて来る削除シーンは「ビデオの画質かよ!」と思うほど悪いので、本編とまったく同じクオリティで削除シーンが見られたことは大いに感動した。

ただし、削除シーンが本当に削除されて当然の、どうでもいい余計なシーンばかりだったのにはずっこけてしまったが、あういぇ。

関連エントリ

I Spit on Your Grave | ナマニクさんの暇つぶし

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