とりあえず車から降りろ!『逃走車』

『逃走車』鑑賞。

それにしてもこの邦題である。『逃走車』。なんという潔いタイトルなのだろうか。『処刑人』とか『誘拐犯』とか漢字三文字のタイトルに日本人は弱いのかもしれない。このタイトルだけで観たいと思わされた映画ファンも少なからずいるだろう。『逃亡者』と間違いそうな勢いである。と関係ない話はこれくらいにしておいて。

仮釈放中に大使館で働いている妻に会うため、規則をやぶり、ヨハネスブルグにやってきた男が主人公。レンタカー屋の手配ミスで注文と違う車が来てしまったが、変える時間はないと、そのままその車に乗ってしまう。すると車内には携帯電話と拳銃、そして縛られた女性が………というのがあらすじ。

一般人が巻き込まれてしまった『トランスポーター』という感じのストーリーが嬉しい、全編車内からの視点で描かれる実験作。コンセプトとしてはジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」に近いが、走ってる映像や客を降ろすところなど車外の映像も使われた「ナイト〜」に比べ、今作では徹底して車からカメラが出ず、主人公が車に乗り込んでくるときも車内の視点であり、エスタブリッシングショットなども全部車の後部の窓から映したりと、なぜそこまでこだわるんだというくらいこだわる。

恐らくこれはニコラス・ウィンディング・レフィン監督の『ドライヴ』や『トゥモロー・ワールド』の中盤のチェイスからインスパイアされたのではないかと思われる。『ドライヴ』の冒頭。ほとんど車からの視点で警察からマジで逃げ切るための地味なカーチェイスが展開されるが、あれをやや派手にしたようなシーンが後半にあり、ちゃんと警察から隠れるために細かく移動するなどそのまんまやっていた。

未見なのだが、人から聞くに『ジャッジ・ドレッド』のリブートが『ザ・レイド』にとても似ているらしい*1。この『逃走車』しかり、もしかしたらこれからこういう「近作のオマージュ」がどんどん増えていくかもしれない。まだ日本未公開だが『クロニクル』も『AKIRA』の実写化よりも前にアイデア一発で映像化に成功してしまった。かつて香港映画界は脚本を書いたら、その脚本を別なプロデューサーが勝手に先に映画化してしまったりすることがあたりまえだったらしいが、それに似たようなことがハリウッドで起きているというのはなんとも興味深い。

さて、作品だが、内容が内容なだけに、行動原理の部分で納得いかなかったり、なんで早めにそれをやっておかないんだとか、とにかくツッコまずにはいられない。これはアイデア一発で撮っているだけに仕方がないことでもある。それこそ『ドライヴ』のようにオープニングだけそれをやるなら印象にも残るが、全編それで押し切るというのはやはり無謀であると言わざるをえない。なんと言ってもほとんど主人公は車から降りず、降りたとしてもそこは省略して、フラッシュバックで描かれる(しかもそれも車内のカメラ)。最後のほうになると車に乗ってること自体が危険になるので、もう車捨てて歩けよ!と言いたくなってしまった。いっそのこと主人公が車から出て行ってもカメラは車に残って、はたして彼はどうなったのかみたいなシーンがあってもよかったんじゃないかと思えてくるほどだ。

そして明らかに時間稼ぎのシーンが多く、そこで一気にテンポが急落する。ランタイムは90分以内であるが、それでも頑張ってる感が散見されるのはいかがなものかとも思った。

それでもこの作品。コンセプトがコンセプトなだけにやはり楽しい。ポップコーンムービーとしてはギリギリ及第点をつけられる。レイトで観るにはちょうどいいかも。ビール片手にどうぞ。

*1:一応『ジャッジ・ドレッド』の撮影が終わってから『ザ・レイド』が公開されたらしいのだが、真意は不明