演劇のえじき『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド・オブ・ザ・ワールド』
『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド・オブ・ザ・ワールド』をレンタルDVDで鑑賞。いわゆる後編。いいかげんほとんどの人が観てると思うのでネタバレします。
「うそだろ?」と言われるかもしれないがマジでおもしろかった。しかも観た人全員が怒り狂ったであろう、前半の50分が特に。理由は至極単純。演劇調で『死霊のえじき』をしていたからである。
『死霊のえじき』はゾンビ映画の始祖、ジョージ・A・ロメロのゾンビ三部作のフィナーレをかざる作品だ。もうすでにゾンビに覆いつくされてしまった世界のなか、地下の軍事基地にこもって生き延びた集団にスポットがあたる。特に『死霊のえじき』はゾンビを相手に暴れまくるというサバイバルアクションは少なめで、人間同士の争いがほぼ全編にわたって繰り広げられるというのが特徴。ゾンビを科学的に研究しはじめたりして、説明的なものが入り、全体的には地味。「ロメロのゾンビ三部作のなかで一番好きなのどれ?」というのは映画ファンなら誰もがしたことある会話だと思うが、意外と『死霊のえじき』を選ぶ人は少なく、毎回アレがベストだというと、もれなくブーイングを喰らう。
話が少しだけそれたが、この『進撃』の後編。重要なファクターであるはずの“巨人”は背景のひとつにすぎず、じゃあ戦わずに何をやってるのかといえば、巨人化したエレンをどうすべきかという問題を、軍の司令部と前線部隊と元・科学者が、やいのやいの言い合いしているだけである。その最中、司令官の勝手な判断である人が撃たれ、一気に緊張が高まった瞬間……!ウルトラゴア描写が画面を覆いつくすと、概要だけ書けばまさに『死霊のえじき』を30分に圧縮したものになっている(巨人に知性がどうのこうのというくだりは“バブ”も連想させる)。
しかも、それを大凡金のかかっている映画とは思えないセットで、ある劇団の演劇のように演出しているから驚きだ。それはまるで『死霊のえじき』を舞台でやったらこうなるといわんばかりだ。
こんな感じで30分延々と
さらにそこから20分、その演劇は『マトリックス』や『ストーカー』のような禅問答になり、やがてそれぞれのキャラクターによる大演説がそこかしこから聞こえてくるというスケールのデカいものになっていくのだが、このみんながつまらないと思ってる部分をおもしろいと感じた段階で、そのままアクションシーンになだれ込むため、少なくてもぼくはまったく退屈しなかった。前編のドラマのつまらなさは、巨人が暴れ回るシーン以外いらないという映画のキャラクターにいろいろ付け加えたからであり、今回の後編のように「これからどうしていくのか?」とストーリーの根幹に関わる部分であれば、否が応でも引き込まれてしまうし、伏線が回収されていくことに快感をおぼえるぼくのような単細胞はそれだけでも「え?それでそれで!?」とそのまま物語への興味が続いていくことになる。押井守を猿真似した宇多田の元旦那の映画みたく、突っ立ってベラベラ喋ってるだけなら早送りもしたくなるが、ムダにカメラがグリングリン動きまわることで視覚的にも飽きさせない。
おそらくぼくはこういう大げさな演劇めいた、学芸会っぽい感じの役者への演技指導が好きなのかもしれない。それに気づかされてしまった。そこを受け入れられるかが評価の別れ目なんだと思う。もちろんクライマックスは最高だったし、87分しかないのもいいし(だったら、二本くっつけて余計な部分カットして二時間で公開しろとも思うが)「もはや『進撃』全然かんけーねー」なエンドクレジットあとのオチも気に入った。悪しき邦画の一本かもしれないが、ぼくはそのなかでも幾分まともだと思いました(だからといって他に観てないけど、ホットロードとか)。おすすめはしないけど好きです。
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