法で裁けないマザファカ野郎はオレがぶち殺す!-『狼の死刑宣告』

DVDで『狼の死刑宣告』鑑賞。

狼の死刑宣告 [DVD]

狼の死刑宣告 [DVD]

以前、いろんな人に『SAW』を観た方がいいよ!と言われてDVDで観たのだけれど、ぼくはまったく好きになれなかった。足首をノコギリでぶった切るという発想は『マッドマックス』よろしくで良かったのだけれど、チャカチャカした編集と、どーでもいいどんでん返しの連鎖に嫌気がさし、こいつの映画は奇を衒いたいだけの空っぽだ!と思って、ジェイムズ・ワンという名前はぼくの中で封印した。だから、ガイ・リッチーポール・グリーングラスに怒ってる人は、なんでジェイムズ・ワンには何も言わないのかなぁと本気で思った。『SAW』で一番おもしろいのは注射器の山に飛び込む『2』だろ!『2』!!もう後はどうでもいいよ!っていうか『3』以降から観てないよ!!

そのジェイムズ・ワンが家族を殺された男の復讐譚を撮ったと言うではないか。断っておくが、ぼくは「法で裁けないならオレが裁く!」という映画*1が死ぬほど好きで、『狼よさらば』はもちろんのこと、評判の悪かった『ブレイブ・ワン』もすごく楽しんだクチである。それでも、ぼくの死ぬほど嫌いなジェイムズ・ワンの映画だからなぁ…と若干二の足を踏んでいて、そこまで観る気がしなかったのだ。

新潟では公開しなかったので、当然のごとくDVDで観たのだが――――これがお見事な作品で、傑作とは言わないまでも、ぼくとしてはとてつもなく気に入った。去年もしスクリーンで観たとしたら、ベストテン――――いや、ベスト5には絶対に入れてたというくらい満足した。

70年代の映画を思わせるざらついた画面に色調を落とした映像が血なまぐさい復讐映画にベストマッチ。肉片がはじけ跳ぶバイオレンスもCGで派手に演出されており、エロこそ一つもないが、R-15を勝ち取った。

狼の死刑宣告』で素晴らしかったのは、ずばり映画的な演出である。言ってみればストーリーは今まで何百回と繰り返されてきたベタなクリシェの塊であって、現代風にしようが、スタイリッシュに決めようが、今更、これやりますか?という感じは否めない。ところが、ジェイムズ・ワンはあえて、何百回と繰り返されたであろう題材に自分にしか出来ないやり方で挑んだ。

クレーンを駆使した長回しストップモーション、ドリーの高速トラックバックに手持ちカメラなど、映画にしか出来ない興奮と感動がストーリーを補填し、ケビン・ベーコンの入魂の演技がそれを援護射撃。こんなヤツ死んで同然のクソカスマザファカ野郎というチンピラ軍団の造型も当然素晴らしいのだけれど、ちゃんと「復讐することに意味なんて一つもないが、それでもやらなければならない」という「でも、やるんだよ」スピリッツを描いていて、とても好感が持てた。

ただ、一つだけはらわたが煮えくり返るくらいムカついた描写があって、それが黒人の女性刑事のセリフ。主人公がチンピラにやられて病院で目覚める場面で警察が警護までしているのに、相手はそれをかいくぐって主人公一家を襲ってくる。当然、警察は主人公に詫びるべきなのだが、ここでその黒人刑事は「だから復讐なんて意味ないのよ!」といきなり説教をかますのである。

いやいや!!なんでそんなこと言うの!?まずはあなた方警察の落ち度を本気で詫びるべきでしょう!!だって、相手が襲って来ること分かってるのに、それでもやられてるって職務をまっとうしてないことになるじゃんかよ!!

そのシーンだけは手に持ってる缶ビールを投げつけてやろうかというくらいムカついたが、それを補って余りあるくらい映画がよかったので許すことにした。

というわけで、『SAW』の監督だと!?ふざけんなよ!という方も観て損はない良質の映画になってますので、心の底からおすすめします。すぐにDVDをレンタルしよう!あういぇ。

*1:ビジランテ映画というらしい