会社を守るはずの警備員がストーカーとなってあなたを襲う!

地獄の警備員 [DVD]

地獄の警備員 [DVD]

11時頃起きまして、黒沢清監督の『地獄の警備員』鑑賞。あなたの会社を守ってくれる警備員がストーカーとなって、あなたの周りの人間を殺し始めたら、、、、というホラー映画で、低予算だが、強烈なビジュアルと黒沢清の手腕が発揮された傑作。っていうか、オレこの映画、すげぇ好きだわ!マジで!!ちょー傑作だと思う。

黒沢清って基本的に全部観てないから生意気な事言えないけど、『CURE』とか『回路』とか『叫』とか、黒沢清のホラー映画ってホントに怖いっていうか、地獄の底まで突き落とす怖さがあるっていうか、底冷えするっていうか、立ち直れないっていうか、心臓ドキドキさせるし、させたと思うと、テーマやオチでさらにどん底にまで突き落とすっていうのがあって、それは通常のホラーとは違う。

音で驚かすのはサプライズであって、ホラーじゃねぇんだよ。黒沢清の恐怖表現ってのは、こう、視覚的にやるのもあるんだけど、なんつーかなぁ、作品のテーマが怖いっていうか、、、多分、普通にね、映画を観るだけの人(観た後にその映画を反芻しない人)にとっては「全然怖くねぇじゃん」ってなるかもしれないけど、オレなんかは、いつも黒沢清のホラー映画を観ると、決まって凹む。んで、絶望的になる。生きてる事も、そして人間も信じられなくなる。

『地獄の警備員』は、黒沢清のホラー映画の原点らしい。だから、今書いたようなのがぜーんぶ出てくる。見終わった後の救いのなさ、いや、主人公達は生き延びてるんだけど、とにかく救いがない。92年の作品で、低予算丸出しなんだけど、撮影の技術を駆使して、怖がらせるためならなんでもするっていうくらいの表現が出てくる。それは『呪怨』みたいに、怖いもんを出しまくれ!っていうんじゃなくて、カメラの動きとか、カット割りで魅せる怖さ。例えば、薄暗いところでコーヒーを入れるだけのシーンでも、ゆーっくり、カメラが筆写体にぐーっと近づいて行って、「何か起こるの?ねぇねぇ、何か起こるの?早くしてよぉ、ねぇねぇ何か起こるの」と思わせる。

かと思うと、遠くの方で何かやってるようなカットがあって、「ん?何やってんだろうなぁ」と「もっと近くで見たいなぁ」って思ったところで、ギュン!ってアップになって「ぎゃー!バットで殴り殺してたぁ!」って怖がらせる。この緩急。見事だ。見事すぎる。

んで、さらに怖いのが暴力描写。なんつーか、えげつない(笑)とにかくえげつない暴力。『CURE』は刀でスパーンって斬るような唐突な暴力。急に長回してて、窓から飛び降りたりするんだけど『地獄の警備員』は切れ味の悪いノコギリで執拗にゴリゴリやる感じ?単純にいうと即死するヤツがいない。殺人鬼がね、人を殺すのを楽しんでやってる。殺せばいいやじゃなくて、まず頭殴って気絶させて、んで、その後に、じっくりと足、腕をそれぞれ折って、そっから殺すみたいな。

振り返った瞬間にバットでバコーンって殴るんだけど、でも、頭をボコボコとメッタ打ちにするような、こう、生理的にいや〜な暴力が連打される。しかも、ヒッチコックの『サイコ』みたいに、カット割りで魅せるんじゃなくて、長回しにして、遠くの方から写して、ワンテイクで、人が殴打されて、虫けらのように死んでいく様を写し続ける。ゴダールの『女と男のいる舗道』のラストを拡張させたような、いわゆるゴダール的な手法を思いっきり手元に引き寄せて、んで、それをホラーの中で表現する。

まぁ、言ってみれば、これ和製『悪魔のいけにえ』なんだけど、そのトビー・フーパー魂をゴダール的な手法に混ぜ込んで、自分のものにした黒沢清は偉い!「安っぽい」とか「B級」とか言われてるらしいが、オレにとってはどんなに金のかかったホラーよりも怖かった!手に汗握った!ドキドキした傑作!