アジカン後藤と秋元康の対談を見て思ったこと

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカルであり、ソングライターでもある後藤正文が地上波の音楽番組に初出演した。

とは言っても、出演したのはMステやHEY×3ではなく、「ゲストが今一番会いたい人と対談する」というコンセプトが売りの『僕らの音楽』。まぁ出演するんだったらこの番組がベストであろう。しかも対談したい相手に選んだのが、秋元康というから驚きだ。あまりにも異色な組み合わせと、あのアジカンが地上波に出る!?ってこともあって、ネットのニュースになったほどである。

早々に本題に入らせてもらうが、内容はとてもよかった。実際、アイドルは別にしても、テレビに出なかったミュージシャンに「休みの日はこんなことしてます」なんて話はしてほしくないし、司会者にもそんな話は聞いてほしくはない。なので、ゲストが話したいことを対談形式で話して、それが見てる側の身になるようなものならば、今回の出演はファンにとってもよかったことなのではないか。

今回が初出演ながら、なかなかテレビではミュージシャンが話さないようなことをガンガン話していて、しかも話してる相手がアーティストとは正反対の立場にいる人間だったために、その視点の違いによるメディア論がおもしろかった。AKBのCDの売り方についても「いろんなところでいろんなこと言われてると思うんですが…」とつっこんでいて、本当に聞きたいことを聞いている感じがこちらにも伝わって来た。

特に驚いたのはアジカン後藤が「テレビに出演しなかったのは何故か?」ということを問われて。こうコメントしていたことである。

「ニュースとかにコメントで出てしまう人とかに対しても昔から危ないところに出てるっていう意識がないとマズいよと思ってたんですよ」


「あとは音が良くないっていうのがあります。ホントは生演奏したいんですよ。でも音が良くないですね。こういう場所で言いづらいですけど、音楽番組の音楽への愛のなさっていうのもミュージシャンを遠ざけた一因ではあると思います。バラエティ化しちゃうっていうか、出て来ても秋元さんと詩の話とかメディアの話が出来たら身のあることだとは思うんですけど、一緒にゲームしてとか言われても……(笑)」(一部略)

これってなかなかテレビでは言えないことだと思うし、テレビを主戦場としてない人だからこそ言える一言だと思う。恐らく本人たちは飲み屋で「なんで最近の音楽番組はよぉ、あんなバラエティみてぇな感じなんだよぉ」とか、くだをまいていたのかもしれない。

ぼくも前から思っていたのだが、テレビというのはなかなか本音を吐露することが出来ない場所になってしまったのではないか。特に規制が厳しくなったと言われる中で、お茶の間にお伺いをたてるようなスタンスの人が増えて来てしまったように思える。実際無茶苦茶やると干されたり、批判を浴びたりする場合があるわけだし。

アジカン後藤のこの話を聞いたときに、年末にバナナマンポッドキャストに出演した石橋貴明のメディアと芸人のかかわり合いについての話を思い出した。

この番組の中でバナナマンの設楽が「テレビに対する憧れが強かったので、出てるというよりは出させてもらってるという感覚になってる」と言った時に石橋貴明は「でもバナナマンは何が一番おもしろいかって言ったらライブなわけじゃん。オレらはTVでダメになってもライブに戻りゃいいよっていう潔さっていうか、オレらが一番大事なのはライブだぜって態度になったらTVの人間は怖くてしょうがないと思う」と諭すように言っていた。テレビというフレームから飛び出すくらいのおもしろさがないとダメなんだと。

今回のアジカン後藤の発言はフレームの外に飛び出してしまいかねないものが多かったように思う。少なくても「今回の新曲にはこんな振り付けがあるんですよぉ。みなさんもやってみてください」的なヌルい話は一切していない。だからこそおもしろかった。先ほどのポッドキャスト石橋貴明が「AKBだってそうじゃん。やってるときメディアは誰も振り向かなかったのに、どうにもならないくらい力を持っちゃうとテレビも無視出来なくなっちゃうじゃん。それがライブの力だよね」と発言してたが、それに呼応するかのように秋元康も「売れ線の曲は常に狙っている。そうしないとメンバーは人気を背景にドラマやCM・バラエティに出られない」と言っていたのが印象的だった。

そう言えば、年始にNHKで「新春TV放談」というのをやっていたが、こちらもテレビに出ている人間や作り手、芸人などが今のテレビについてかなり本音で語り合っていて、「そんな話までしていいのか!?」というのがたくさんあった。んで、これも「テレビで今こんなこと言っていいんだ!?」みたいなタブーを犯している感じがした。だからこそこの番組もおもしろかった。

最近のテレビはつまらなくなってる。若者のテレビ離れが激しい。というのは最近よく言われてることだが、それは「こいつテレビでなんてこといってやがんだ?」感がなくなってきたからだと思う。少なくともぼく自身はテレビのフレームから飛び出すような番組が見たいんだなと今回の『僕らの音楽』を見て再確認した。

というわけで、いろいろと賛否があったようだが、こういう出演の仕方なら大歓迎だ。あとフレームの枠を飛び越すための一歩として、とりあえずテレビでおっぱいを出すことから始めたら良いんじゃないかな。マジで。あういぇ。

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