スローライフ系にかわるコンテンツとなるか『すべては君に逢えたから』

『すべては君に逢えたから』を試写会で鑑賞。

IT企業の社長と売れない女優。孤児院で働く女と子供。ウェディングドレスをデザインする会社で働く女と仙台の建築会社で働く男の遠距離恋愛。40年以上前に駆け落ちに失敗したケーキ屋。そのケーキ屋でバイトをしている女子大生。そしてそのケーキ屋で毎年クリスマスケーキを買っている余命いくばくもない男。それぞれが東京駅周辺を舞台に繰り広げる「小さな奇跡」についての物語。

クリスマスが近づく東京駅周辺を舞台にしたグランドホテル形式のラブストーリーということで完全に『ラブ・アクチュアリー』から連なる「記念日ラブストーリー」の日本版。そのわりに話の軸になるはずの東京駅がさほど登場せず、東京駅100周年記念と銘打って製作されながらそこがほとんど目立ってない。実際駅とは関係ない話もあり『ラブ・アクチュアリー』を目指しているのに「難病もの」や「年老いた男女の奇跡」、「親のいない子供のエピソード」もプラスされ、そういった意味では映画マニアではない普遍的な層が何を日本映画に求めているのか?がわかっておもしろい。マーケティングはしっかりしている。しかし、尺が異様に短いため、すべてが中途半端で散漫な印象。


ここからややネタバレあり


セリフ回しは意外としっかりしており、遠距離恋愛のエピソードは恋愛における「あるある」がリアルに提示されるが、基本的に破綻も多い。

スマホを使わないというシーンがいくつかあって、だったらスマホを登場させなければいいだけの話なのだが、そうもいかず中途半端につかってしまうのでラストの展開も感動が弱まった。今の時代にスマホを使わない恋愛映画は無理がある。

映画の一番の見せ場というか盛り上がりはシンデレラストーリー的に配置される玉木宏高梨臨の「IT企業の社長と売れない女優の恋愛」であり、オチもあって大変おもしろいのだが、尺の短さによって行動原理がわからないところが多々あった(これはすべてのエピソードにいえる部分でもある)。

例えば玉木宏は初めて高梨臨とあったとき、彼女に妙な言いがかりをつけて罵倒するのだが、その理由がよくわからない。過去にこっぴどい恋愛をしたり、育ってきた環境が悪かったのかというのはこちらが推測するしかないのだが、過剰に描くことが当たり前になってる邦画界において、このすっとばしはさすがにどうかと思った。

各々のエピソードが細かい所でつながっているということで脚本にはかなり苦労しただろうが、玉木宏の姉の旦那が余命いくばくもない男であり、それが物語の「つながり」として提示される。

高梨臨は最初に出会ったときの態度に怒りを覚え、つい「ホントは彼氏とくるはずだったんですが、死んじゃったんです」というウソをつくのだが、後に偶然に再会し、ふたりは急接近するも、そのときに罪悪感からウソをついたことを玉木宏に告白。すると玉木宏は当然のように怒るが、その前に玉木宏高梨臨に失礼な態度をとっているわけで、観てる我々としては逆ギレもいいとこである。というか、なんで「自分の義兄が余命いくばくもない」ことに触れないのか。リアルなドラマならばそんなことをいちいち口にしない男として成立するかもしれないが、そういうシーンをつながりとして観客に見せてる以上は伏線として機能しているわけだから、触れないとそれが違和感になってしまう。

他にも東京は『カサブランカ』がレイトショーから観れる映画館があるんですねーとか言いたいことはたくさんあるが、ここに関してはいろんなことを言い出したらキリがないのでやめる。

難病エピソードに関しては息子に父が死ぬことをかなりあとになって話すのだが、もっと早く言い出したほうがいいのではないだろうか?雨上がり決死隊宮迫博之は自身がガンになり、それを息子に話したら、息子はあっけらかんとした態度で「パパなら大丈夫。絶対に治るから」といってトコトコと自分の部屋に戻ったというエピソードがあるが、そのエピソードをまったく映画が越えられてないのもどうかと思った。いわゆる「泣かせ」に走っているのである。

倍賞千恵子演じるケーキ屋の話もなかなかであり、彼女は40数年前ある男性と“駆け落ち”するはずだったのだが、彼は東京駅にこなかった。その理由がラスト付近で明かされるのだが、君たちは“駆け落ち”が何か理解しているのか?その辺の理由がすごかったので是非これは本編を観て確認していただきたい。ちなみにこのエピソードと本田翼のエピソードは別物としてクレジットされているのだが、別物にする理由が見つからなかったことも付け加えておく。


ネタバレ終了


というわけで、リアリティがあったり、玉木宏の話がよかったりしたのでなんとも惜しい作品になってしまったが、テレビ局主導ではなくしっかりワーナーが製作に踏み切って作ったことは評価してあげたいなと思った。最後の最後に『マグノリア』みたいなことになればいいなとか思って観てたが、それは暴論なのでやめておく(言ってるけど)。ヒットしたらおそらくこの系譜の作品はアリだと判断され、スローライフスローフード系に変わるコンテンツとして邦画界を席巻するであろう。

ちなみに東出昌大くんってすっげえ演技ヘタなのな。『桐島』観てないからわからなかったよ。