この映像に大友克洋は嫉妬する『ヒューゴの不思議な発明』

ヒューゴの不思議な発明』を3Dで鑑賞。

ドンデン返しがあるとかそういうのとは違うが、あらすじについていっさい言及ができないマーティン・スコセッシ監督最新作。自身、初の3D映画であり、FUCKと血にまみれた作品を得意としてきた彼が、初めて手がけた家族向けのファンタジー映画でもある。

とは言いながらも、スコセッシが子供のころに感じていたような「見せ物」としての「映画」にこだわった内容で、映画がちょうど進化を遂げはじめたころの時代と「3D」という新たな「見せ物」でなければならない現代の関係性がリンクし、必然的に3Dでなければ成立しない物語になっているのが特徴。

リュミエール兄弟がフィルムを使って、カメラに向かって来る列車を観客に見せたとき、観客はこちらに列車が飛び込んで来るかと思って身体をのけぞらせたというエピソードは有名で、本編にも登場するが、その「感じ」をもう一度やるために、あえて3Dというツールを使ったのではないだろうか。

実際、その内容にあった数々の視覚効果に、なんとなく持っていた映画愛を根底から揺さぶられ、正直、中盤からは涙腺が決壊したんじゃないかと思うほどに泣いた。

始まって早々、壮大なエスタブリッシング・ショットで街の外観などを一気に見せたら、今度は箱庭的な細かさでもって、この街の中に飛び込みたいなと思わせる。3Dメガネのむこうがわに広がる世界は、今までのどの映画の街よりもイキイキとしており、ディテールが細かい。この冒頭だけで、完全にこの映画に入り込めるなと確信した。

そしてそのあと、カメラは猛スピードで駅の構内をトラックアップしていくのだが、ここがとにかく素晴らしい。正直、この手のデジタル映画とトラックアップ/バックの相性の良さは大友克洋が監督した短編映画『大砲の街』と『スチームボーイ』で証明されていたのだが、今回それを参考にしたのか、それとも本能的に分かっていたのか、カメラは少年が縦横無尽に駆け抜ける様子を丹念に追い続け、上下左右に気持ちよく動いてくれる。

あのころはそういった技術面もふくめ、先駆的な表現にとどまっていたが、画とのなじみかたから、それの完成系をついに2012年に見たという感じだ*1。そのスチームパンク的な世界観と、奥行きにこだわったカメラと3Dとの相性の良さも含めて、完全にこの作品は『スチームボーイ』とかぶる。大友克洋はこの映画に嫉妬するに違いない。

冒頭こそ奇を衒ったような作りにはなっているが、その後はファミリー向け娯楽作としての機能を充分に果たしている。正直、じゃっかんもたつく個所や過剰に引き延ばされていくシーンがあり、そこでリズムを狂わされるものの、狂気すら感じる過剰なまでの映画愛だけで胸いっぱいであり、伏線の張り方もうまく、基本的には申し分ない作りである。

というわけで、「またふんちゃらの冒険系かよ」と思ってる人はそのギャップに驚くことになるので絶対に必見。そして映画ファンはスクリーンいっぱいの映画愛にむせび泣け!おすすめだ!あういぇ。

*1:2011年の作品だけど