この物語はフィクションです!『半沢直樹』

超話題のドラマ『半沢直樹』を観た。

あまりにも今更なので物語の概要はすっ飛ばすとして、Hey! Say! JUMPという分かりやすい枠以外は観客に媚びないキャスティング(檀蜜もその部類だろうが、役としては愛人なのでこれ以上の適役もいないかと)をはじめ、どっかの事務所からお願いされたような作品にあわないJ-POPは一切使わず、恋愛がどうのこうのというのもないので、異常に骨太で男臭い「大人のドラマ」であることを強調しているのが特徴。『オレたちバブル入行組』というとんでもなくダサいタイトルをシンプルに『半沢直樹』にしたのも成功の要因のひとつであろう。

そのタイトルの変更もふくめ、“「大人のエンターテインメントを観ているぜ、オレ」感”みたいなものが、テレビこそ娯楽の王様!という層に働きかけたのか、最終的な視聴率は平成に入ってからのドラマでトップを取ったというから驚きだ。『家政婦のミタ』同様、内容だけでおもしろいものを作ればとてつもないヒットになるんだということで多くのテレビ関係者は勇気をもらったことだろう。

あと最終回については賛否両論巻き起こっているが、ぼくはアレでよかったのではないかと思っている。あまりにもあっけなく、なにがどうなったのかもあまり明かされない。内容的にもそこまで前進しないボーナストラックのようで、視聴者から問い合わせが殺到したのもよく分かる話だ。制作側にしてみれば続編を作る気マンマンだったのだろうが、それにしても宙ぶらりんな尻切れトンボで終わる。これだけ盛り上げといてそれはないだろう!とお怒りになった方も多かっただろう。

しかし、作品の内容やこれだけの社会現象になってしまった今、この終わり方も納得できるというものだ。

愛という名のもとに』というドラマで、中野英雄が自殺した回が放送されたあとに街を歩いていたら「あらー!あんた生きてたんだねー!よかったー!!」とおばちゃんに言われたというエピソードがあるが、よく考えてもみてくれ。これは言ってみればバンカーとはいえ、会社の在り方や仕事などはサラリーマンと同じお話だ。劇中でも半沢に影響されて、上司に歯向かう同期が出てくるが、こんなヤツが現実に本当に会社に溢れたら企業にとってはいい迷惑であり、一歩間違えば会社から鼻つまみものにされ、家族だって路頭に迷ってしまうかもしれない。

つまりこの終わせ方は「Air/まごころを君に」であり、熱狂した観客に冷水を浴びせかけたのだ。作品はこれでもか!とドラマ的であり、現実にはありえない展開や人間を活写しているが、どれもこれも「これはドラマですから!みなさん!現実にはこんなことありえませんから!」というのを誇示しているようにも思える。映画やドラマのなかでの戦争は楽しいし、暴力描写もなるべく見たいし、倍返しでもなんでも気持ちよく写るが、現実はそうはいかないので、こういうものを架空のモノとして見ていただいて、これからの活力にしていただければなという製作サイドの優しさすら感じたラストだった。

さて、長々と遠回りしたが、この作品。大ヒットになってるわりに傑作とは言いがたい。むしろ変なドラマである。

前述の通り、観客にいれこむ隙をあたえないため、キャラクターがあきらかにステレオタイプばっかりで、こんなヤツ現実にいるわけがない……むしろドラマだからこそ成立するといわんばかりの刻印がこれでもかと押されている。悪いヤツは悪く、いい人はとことんいい人であり、宇梶剛士が悪巧みをしているシーンなんかまるで時代劇を観ているようで、奥のほうから「お代官様〜」なんてヤツがあらわれるのかと思ったくらいだ。実際時代劇調にしたのもウケたのか、主人公の半沢は剣道が得意であり、ゴルフクラブを使ってチャンバラし、敵を叩きのめすなど、そのような意図もハッキリ感じられる。

役者の演技もそれにあわせ基本はオーバーアクト。ツイッターでそれが鼻につくという意見も目にしたが、なるほど、これはたしかに頷ける。それでも一部の大阪編はたのしく観たのだが、二部になると今度はそのテンションの高さにも慣れ、逆に作品のアラが目立つようになってしまい、いうほど楽しめなかった。


以下、軽くネタバレ

最後のアレにしたって、復讐のためとはいえ、いくらなんでもやりすぎだし、そもそも海外との業務提携の話を一介のバンカーが上司の承諾なしに勝手に押し進めていいものなのだろうか(時間がないとはいえ)。他にもいるだろう重役って呼ばれる人は!あと本当にあることなんだろうけど、人とのつながりを大切にしたいという主人公も人をつかって書類を抜き取るなど犯罪すれすれのことするわ、上司にたいする口の利き方がなってないわ、人のポリシーねじ曲げさせるわ、ちょっとどうかと思うところもしばしば(味方でありながら半沢さんを驚異に思う人もいるほど)。老舗ホテルの社長は120億の赤字を出しておきながら、なに美術品は売ることはできないとかなめたこと言ってんの?まず、その前に赤字だしたババアは責任とらないと。といったわけで話の根幹がそもそもおかしい。

ネタバレ終了


というわけで、なんともまとまりのない感想になってしまったが、雑記ということでひとつご勘弁。個人的には5話まではバツグンにおもしろかったので、それまで観ていただいてから、6話以降様子を見るのがおすすめ。ぼくの周りでは観るの飽きて途中でやめたとか、そこまでおもしろいドラマじゃなかったという声もあるので、意外と万人ウケする内容ではないのである。