ぶっちぎりで変なドラマ『SUMMER NUDE』

『SUMMER NUDE』を最終回まできっちり観た。『謎解きはディナーのあとで』は途中で飽きて観るのをやめたのにも関わらず、順調に視聴率が下がりつづけるこの作品をなぜ最後まで観てしまったのか……自分でも謎である。

いやぁ、それにしてもヒドい。特に最終回はヒドかった。わかりきった結末なのは仕方ないにしても、スライドショーを見せて各キャラクターの説明をするくだりは特に最悪で、画だけで主人公たちの葛藤や心情を見せ切るというのではなく、言葉でぜーんぶ説明して、しかもそれが今更言われなくてもいいことなので、単に引き延ばしてるだけじゃないかと思ってしまう。ぶっちゃけ7話くらいから同じ話を延々繰り返しており、そもそもアナウンスされていた登場人物たちの三角関係みたいなものは6話以降薄まり、最終的に若者たちのひと夏の青春みたいな方向にシフトしたのはどうかと……脚本家とプロデューサーの間で何かトラブルがあり、ボイコット的にテロ行為を起こしたのか?と変に邪推してしまうくらいだ。職場の人間も含め、ぼくの周りでも数人の人が鑑賞していたが、これはぼくだけの意見ではなくて、ひとりの後輩にいたっては「月9の恥」とまで言い切っているので、よっぽどヒドいドラマなんだろう。

2話のへんてこりんな設定やフジファブリックの『若者のすべて』が使われた回などちょこちょこネタにしてきたが、最終回まで観て思ったのは、一体このドラマはなんだったのか?ということだ。というのも、『SUMMER NUDE』という作品をひとに説明するとき、なんといっていいかわからないのである。

いまや超人気作家の百田尚樹が作品ごとにガラリとテーマを変えるので「ファンがつきにくい」と漏らしていたが、このドラマも各話で話の方向性や軸がブレにブレまくり、何がしたいのかよくわからない。ハリウッドの企画は30秒以内で説明できるものでないとダメだとティム・ロビンスが『ザ・プレイヤー』のなかで言っていた気がするが、このドラマの概要を30秒以内で説明するのは無理な気がする。とりあえずつかみどころがないドラマだったので、以後、変だなと思ったポイントをテーマにひとつひとつ検証してみることにする。


長澤まさみのキャラクターが分からない

第一話から重要とおぼしき立ち位置の長澤まさみだが、6話で早々に退出させたのはどうかと思う。普通この手の連続ドラマは5話くらいから中だるんで後半に向けてスパートをかけるわけだが、一番のピークは5話のラストであり、それ以降はズルズルと似た話を延々繰り返してるだけだった。だったら5週もかけて前フリなんてするなよという話で悪い意味でのミスリードであり、観客の期待を見事に裏切っている。山Pは長澤のことを3年間も想い続けており、それがこのラブストーリーを動かすための重要なファクターだったわけだが、それが意味のないものになってしまったら、あとはなんとかラストまで引き延ばして無理矢理な結末をつけるしかない。


・突如出てくるキャラクターとその存在がわからない

話の方向性がブレまくると書いたが、このドラマ。長澤まさみ香里奈の元旦那のくだりにたっぷり時間をとっておきながら、その後でてくる重要なキャラクターは何の前フリもなくあらわれ、そして何の意味もなく消えていく。大手術を控えた少年。戸田恵梨香のお父さん。山Pの同級生であり、東京では有名なカメラマン。香里奈のことを厳しく叱責する上司。どれもこれも後半の物語を動かすための重要なキャラクターなのにかなりぞんざいな扱いで、特に香里奈のことを目の敵にする上司はある日焼きそばを食べさせたとたん急に優しくなり、おっ、こいつら恋愛に発展するのか?と思いきや、結局なんもなかったり、この上司と元旦那と山Pの三人で取り合いになったほうが絶対におもしろくなったはずなのにそんなこともない。結局最終回までダラダラと分かり切ったことをするだけで終わる。ホントに何かあったんじゃないだろうか……


・そもそも狭い世界で恋愛しすぎ

このドラマの最大の弱点はものすごく世界を狭くしてしまったことである。ひとつの小さな田舎町のさらに小さな世界のみに話をしぼり、限定した人間だけで話を回しているので、最終的には「いやいや、お前ら恋愛する相手なんて他にもいるだろ!」と言いたくなり、お話に集中できない。これがゾンビ映画なら社会の縮図として、それぞれが何かの象徴になるわけなのだが、これはそんなこともなく。最終的には自分の結婚パーティーに元カノを呼ぶなど、無神経にもほどがある演出をしているくらい世界が狭い。結局作品のテーマはその狭い世界から飛び出そうということになるわけなのだが、それによって作品のテーマがブレたのはいうまでもなく、青春モノとしても恋愛モノとしても中途半端。


・山P三年間も元カノのこと想い続けたわりにそのあと他の女に目移りしすぎ

多分このドラマで一番悪いのは10年間追いかけてきた山Pの気持ちがこっちに向いてると分かった瞬間に急に恋愛の熱が冷めた戸田恵梨香であり、彼女がそのまま山Pを受け入れればこんな体たらくにはならなかった。んで、そのふたりを見ながら応援してるはずだった香里奈が山Pを好きになり……そこに長澤が帰ってきて……という展開でよかったはずなのに、戸田恵梨香が山Pを好きになるのやめます宣言したせいで事態は収拾つかなくなり、結局山Pは香里奈のほうへ……思えばメガネの映画オタクを好きになるモデル志望の女の子も最初は山Pに気があるそぶりをみせており、その娘もからんだほうが遥かにおもしろくなったはず。もしかしたら脚本家はありとあらゆることを想定して伏線をはっており、どんな事態にも対応できるような設定にしていたのかもしれない。ホントに作品を書いてる間に何かあったんじゃ……


というわけで、なんとも体たらくに終わってしまった『SUMMER NUDE』だったが、やっぱり『ビーチボーイズ』の恋愛版として最後まで描き切るべきだったんじゃないかなと思う。早々に香里奈が東京に帰るとか、海の家をしめるだとか、どうなっちゃんてんだよぉ!と他にも言いたいことはたくさんあるわけで、おもしろいものを作ろうという気概が感じられないのは致命的。作品のおもしろさで数字を稼いだ「半沢直樹」や「あまちゃん」の見習え!と心の底から言いたくなった。まぁ両方とも観てないんだけど……っていうか、オレはこの二大ヒットドラマを観ずになんでこんなものを最後まで……とりあえず6話までは観て損はないと思うので興味があれば是非。5話のラストが最大のピークです。

ちなみにぼくのなかでの今年の流行語は「じぇじぇじぇ」でも「倍返しだ!」でもなく、このドラマで戸田恵梨香が放った「のもっ!」である。