ローマ人が日本の銭湯にタイムスリップ!

今年のマンガ大賞で『バクマン』や『宇宙兄弟』、先日紹介した『アイアムアヒーロー』を抑え、堂々の一位を獲得しベストセラーになった『テルマエ・ロマエ』を早速読んだ。

テルマエ・ロマエ』――――インパクトのある表紙はよく本屋で見かけてはいたのだが、いかんせんこの横文字丸出しのタイトルがまったく覚えられず、会う人会う人に「あのローマ人が日本の銭湯にタイムスリップするヤツおもしろいの?」と聞いてまわっていたのであった(何故かぼくのバイト先にはマンガ好きが異常に多い)。

今の日本同様、風呂の文化が栄えていた古代ローマを舞台に、時代遅れの堅物浴場設計師ルシウスが、その堅物さ故に職を失ってしまうところから物語は始まる。落ち込み半分怒り半分で大衆浴場に行き、湯につかっていたところ、何故かルシウスは日本の銭湯にタイムスリップしてしまう………

日本の恵まれ過ぎてる風呂文化と、古代ローマ人も風呂好きだったという妙な共通点からひねり出したであろう設定がずばぬけておもしろく、主人公ルシウスのキャラクター設定もあいまって、日本の風呂の文化を批評的なスタンスでもって笑いに変えているところが唯一無二。各話の間に差し込まれる作者の風呂コラムも秀逸な出来で、時代背景や日本と海外の風呂における文化の違いなどを軽妙に論じており、これが作品の理解を深める効果も生んでいる。

若干、設定に足をとられすぎてるきらいがあり、グルメマンガのそれのように、一般人が何故か急にタイムスリップしてきた外人に対して説明的にコミニュケーションをとるなどの致命的な弱点はある(しかもみんなビールをくれたり、温泉玉子をくれたり、積極的に話しかけるなど妙に優しい、そう言えば昔、入れ墨お断りのスーパー銭湯に入れ墨を入れた外人が入って来たのだが、誰も注意しようとはしなかった。まぁ、入れ墨くらいどーでもいいのだが……)、あと次々に新しい風呂を考えてくれと依頼されるが、そのたびに日本にタイムスリップするという展開も毎回毎回だと若干マンネリを感じなくもないが、そのマイナスな部分も含め、練りに練って発想してるんだろうなぁというのが汲み取れるほどの愛おしさに溢れている。

なんと言っても、このマンガに溢れているのは風呂愛だ。

タイムスリップしてきた家にある狭い浴槽を見たルシウスが「墓のようなスペースしかないのに湯を欲するとは執念を感じる」と言っているが、これがこの作品を表現するすべてであって、とにかく風呂というものに異常な執着を持ってるマンガなのだ。風呂さいこー!もっと風呂に入りたい!という単純な欲求から生まれたようなマンガである。

こういう風呂ネタばっかりでは厳しいんじゃないのか?と読んでて思うのだが、二巻ではその風呂愛みたいなものを全部捨て大胆にシフトチェンジし、ローマの文化を全面に押し出していて、これはまたこれでおもしろかったりするのが素晴らしい。というか一話自体の構成だったら、あきらかに二巻の方がよく練られている。

ハッキリ言うと長くは続かないマンガだと思うのだが(勝手に断言)、大胆な発想と、それにあったギャグとのバランスが絶妙な奇妙な作品。確かにおもしろいが、これがマンガ大賞一位ってのもなかなか信じられない……あまり声を大にして「傑作だよ!これは!」ってタイプの作品ではないような………だって、あの大人気マンガ『バクマン』や『宇宙兄弟』(両方読んでない)を抑えて一位なんだぜ……日本もなかなか思い切ったことしてくれるじゃねーか。ま、こういうの嫌いじゃないぜ。君の夢がかなうのは誰かのおかげじゃないぜ。あういぇ。

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス)

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