- 作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,久保昭博
- 出版社/メーカー: 水声社
- 発売日: 2011/10
- メディア: 単行本
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映画は『底抜けてんやわんや』のようなシュールなドタバタ劇であり*1、ディズニーのアニメをそのまんま実写化したようなハチャメチャなもので、クライマックスはそのまんま『家族ゲーム』に影響をあたえたんじゃないかとか、いらない邪推をしてしまうわけなのだが*2、実はこのハチャメチャな映画。原作がそもそもハチャメチャなんだと教えてもらったのはかれこれ8年ほどまえになる。
いわゆる新訳がでてしまったことで、その原作を「旧訳」と便宜上表記させてもらうが、いわゆるその旧訳ってやつがまぁ読みにくいのなんのって、いまとなっては苦心惨憺しながら無理矢理ゴールにたどりついたという印象しかない。
――――が、それでもこの原作を映像化するとああなるよなぁといったぐあいで、それはそれはとてつもなく変な=楽しい小説であったことは間違いなく、クライマックスのドタバタや唐突なラブストーリー展開も原作通りで、意外と忠実に再現されてるということも知ることができた。
時はながれ、この『地下鉄のザジ』に新訳がでたということをしったのは『空中キャンプ』というブログのこちらのエントリ。
読みにくかったという印象があるいっぽうで、新訳がでたついでにもういちど読んでみたいなぁという気持ちもあり、このエントリを読んでから半年以上たち、ようやく手にとるはこびとなった*3。
読みはじめて思ったのは、かなり読みやすくなってるなということ。
いや待て――――これはもしかしたらオレの読書能力があがっただけなのかもしれない(きゅぴーん)と調子こきながら読み終え、あとがきを読んだら、読みやすいように翻訳したと書かれていて、ですよねーとすかさず襟をただした。
新訳は読みやすさを重視した――――かどうかは定かではないが、そのおかげで、この『地下鉄のザジ』という小説がいかに風変わりであるかというのがより明確になった。逆にいえば旧訳はそれほど原文のリズムやスピード感に忠実だったといえる。旧訳でおろそかになっていたルノー節は復活させたが、それ以外の物語を推進させる部分は読みやすくしたということなのだろう。ウイスキーをそのまんま飲むより、常温の水で割ったほうがほんらいの味がわかるというが、それにかなりちかい。
スラップスティックノヴェルというジャンルがあるかどうかは不明だが、読んでてドリフ的なドタバタが目に浮かぶ表現力はさすがだ。それだけでなく、センテンスも短くなったり、長くなったり、口語体になったり、あげくの果てにゴダールがやるような、これは小説でっせ的なアッカンベーもあり、もうひっちゃかめっちゃか。当然ながら作品の展開もその文体にあわせて、ひっちゃかめっちゃかにならざるを得ない。
訳者は「完璧な翻訳は存在しない」と言い切っているが、今回のフラットな新訳は個人的にかなりおすすめ出来る。それこそ、ぼくは「もし樋口毅宏がルイ・マルの『地下鉄のザジ』を小説化したら?」というような印象すら受けた。もちろんそういう風にたとえられるくらい引用もたっぷり。
というわけで、ぼくと同じように映画から入って、旧訳でグッタリした人にはおすすめ。モノローグを多用していた『アメリ』は実は小説版の『地下鉄のザジ』をかなり意識したんじゃないかなぁとまで思わせるくらいの良い訳だった。
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
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