読むヒップホップの授業『文化系のためのヒップホップ入門』

『文化系のためのヒップホップ入門』読了。

id:doyさんのブログにて紹介されてるのを見て、即購入し、あっという間に読んだ。

2011-11-13 - THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE

ぼく自身ロック至上主義みたいなところがどっかにあり、実は積極的に聞く音楽のジャンルというのはかなり少ない。オアシスのノエル・ギャラガーが口汚く他ジャンルに対して罵ることがよくあるが、結構共感できるところがあり、恐らくビートルズからロックに入った者はそれ以降の音楽ジャンルに懐疑的なところがあるのではないだろうか。特にぼくはブリットポップ直撃世代であり、おかげでメタルもハードロックもテクノもパンクもハードコアもニューウェーブもイマイチ理解出来てないところがある*1。ただノエルと違うのはグランジオルタナだけは許容しているというところであるが。

そんな積極的に聞かないジャンルが多い中でもヒップホップだけはちょっと違っていて、音楽的な良さはやっぱり理解出来ないんだけど、それとは別にぼくはヒップホップという現象、ヒップホップという手法にとても興味があるのである。

例えば、TBSラジオの「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」でもヒップホップが「特集」されたものは繰り返し聞いていたりするし、佐野元春のソングライターズでも一番おもしろいと思ったのは同じくライムスターがゲストで来た回と、KREVAの回だったりする。名盤と呼ばれてるものは一通り揃えたが、それもヒップホップの名盤ライナーノーツ集『チェック・ザ・テクニーク』の内容をより深く知りたかったというのが最大の理由である。

そう言ったロック至上主義でヒップホップにある程度興味がある人、さらにヒップホップの何が良いのか分からない人にとって『文化系のためのヒップホップ入門』は良書となるのではないだろうか。

ライターである長谷川町蔵氏と大和田俊之氏の対談によって構成されているのだが、大和田氏がロックリスナーからヒップホップに入ったクチで、ヒップホップが聞けるようになるまで時間がかかったというタイプであり、「Pファンクが元ネタになってるけど、それだったらPファンク聞くし!」という、ぼくとまったくおんなじスタンスの方だったのだ。そんな大和田氏が大学でヒップホップについて講義した授業を拡大して書籍にしたのが本書である。

この手の本にしては対談形式で進んでいくので非常に分かりやすく読みやすいし、ヒップホップを聞いてて浮かぶ疑問――――「なぜラッパーはMCと呼ばれるのか?」「なぜラッパー同士ディスり合うのか?」「なぜサンプリングから曲が作られるのか?」「なぜヒップホップにDJがかかせないのか?」「なぜ喋るように韻を踏むというのが基礎になっているのか?」という根本的なことをすべて説明してくれる。しかもロックリスナーとの比較で話してくれるので楽しいし、最終的に「ヒップホップとはツイッターである」とか「ヒップホップとは音楽ではなくゲームである」とか「ヒップホップとは少年ジャンプである」とか「ヒップホップとはプロレスである」とか「ヒップホップとはお笑いである」など論理がエラい所まで飛躍していくのだが、膨大な知識の裏付けがあるので、かなり説得力がある。

しいて不満を言うとすれば、日本語ヒップホップへの言及があまりに少ないことくらいだろうか。なんといっても三木道三の「Lifetime Respect」のタイトルを「一生一緒にいてくれや」と言ってるくらいだし。ま、あれはヒップホップではなくレゲエという捉え方もあるんだけど。

というわけで、ぼくのようにサブカル寄りのロック好きにはおすすめ。というより、音楽的にお話としておもしろいので、ヒップホップの授業を読むという感じで手に取ってみてはいかがでしょうか?あういぇ。

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

*1:もっと言えば、オアシスが直接影響受けてるというザ・スミスザ・ストーン・ローゼズも理解出来ない節がある。