これぞダグ・リーマン!『フェア・ゲーム』

フェア・ゲーム』鑑賞。といってもシンディ・クロフォードが出てるヤツではなく、ダグ・リーマン監督の新作。

CIAで働くヴァレリー・プレイムは凄腕の工作員。彼女の夫であり、元ニジェールの大使であったジョセフ・ウィルソンはCIAからの要請を受け、イラクがウランを買い付けたかどうかを現地に調査に行く。そこで「そのような事実はない」という報告をしたにも関わらず、ブッシュは「イラクには大量破壊兵器がある」と国民を扇動して開戦。その時の中継を見ていたウィルソンは「事実とは違う」と、真実をニューヨークタイムズに起稿する。ところが、その調査を要請した副大統領が事実をもみ消し、さらにはプレイムがCIAの工作員であるということを暴露してしまう。これは立派な法律違反だ!!と憤慨するウィルソンは個人で国家と戦うことになるのだが……というのがあらすじ。

ぼくらのダグ・リーマンが帰って来た!

事前になんの情報も入れずに見に行ったので、てっきり女スパイがド派手なアクションで戦う話だとばかり思っていたが、これがなんと実話を元にしたポリティカルなサスペンスであった。映画的な題材を地味目なアクションで丁寧に作り上げた『ボーン・アイデンティティ』で大出世したダグ・リーマンだが、今作は逆に実話を元にしながら、映画的な演出で上質のエンターテインメントに仕上げた。

CIAの工作員の身分が副大統領によってばらされてしまうというプロット上のキモの部分は実は映画の半分くらいからであり、実際のところこの作品は日頃彼女はどのような仕事をしているのか?そして夫との関係性はどのようなものなのか?という部分に異様なほど時間を割いていて、物語が動き出すまでにかなり時間がかかる。それを「イラク戦争がどのように始まったのか?」という部分とリンクさせることで、ひとつの家族とひとつの事件を退屈せずに深く知ることが出来るという作り。実際、イラク戦争のことについて何も知らなくても、この映画を観ておけば、ある程度の流れはつかめるはずである。というか、実際、実話を元にしているからドキュメンタリーのそれのようでもあるんだけれど。

基本的に映画は夫婦の会話がメインで、ド派手なシーンは少ない。唯一中盤、銃弾が飛び交う中、長回しで車が暴走するところを車内のカメラから撮るという、ダグ・リーマンらしいかっちょいい演出があるが、それ以外は基本的に会話のみで映画が進んでいく。その会話を飽きさせないようにカットは長めでカメラもビュンビュン動くのが特徴で、だからと言って、手持ちカメラを使ってないあたりも好感が持てる。あ、後半、夫婦の関係性が壊れかけるところでグラグラと画面は不安定に揺れるのだけれど。

夫婦を演じたショーン・ペンナオミ・ワッツは完璧。『コンテイジョン』のエントリで役者の演技が見せ場だと書いたが、まさにこの作品も二人の演技合戦によって引っ張られていく。すべての感情を出し尽くしてるんじゃないかと思うほどで、特にナオミ・ワッツの繊細かつ大胆な演技の幅は見物だ。夫婦で「CIAがどうした」とか「副大統領にやられた!」とか一般的には到底しない会話をしてる間に子供が「ねぇねぇこれして遊ぼうよぉ」とだだをこねてくるなど、家族というものを描くのに必要な細かい演出のひとつひとつに感心した。

というわけで、911テロについての映画が公開されてる中でも最重要な作品。これだけの重厚な作品なのに、なんとランタイムは108分で二時間もない!これに比べて同じく実話を元にした『はやぶさ』なんて140分だぜ……一体何考えてんだよ……