こういうジョーカーなら試されたい『惡の華』

このマンガがすごい!2011』で10位に選ばれた『惡の華』を読んだ。

――――と最近この出だしのネタが多いのだが、何故かというと0度や氷点下が当たり前という寒さのせいで外に出るのが億劫になってしまい、部屋にこもってマンガばっかり読んでいたからだ(あとTwitterとAKB関連の動画を見てた)。しかもそこまでマンガには詳しくなく、さらにぼくの中では5年前くらいでマンガ動向は止まっているため『このマンガがすごい!』のムックに載ってるヤツをちょこちょこ読むというミーハー極まりない作戦を敢行しているのであった。

さて、この『惡の華』という作品。大変おもしろく読んだのだが、これが10位にまで喰い込んで来るとは驚きだ。今や少年マンガは「必殺なにがしー!」とかいって敵を倒すまでに何週もかかるような作品だけがもてはやされてるわけではないのだな。

ストーリーはいたってシンプル。中学二年生の春日高男がクラスのマドンナ佐伯奈々子の体操着の匂いを嗅ごうとしたところ、人の足音にびくついてしまい、その弾みで体操着を持ち帰ってしまう。翌日クラスでは体操着が盗まれたことが大問題となっていたものの、犯人が誰かということは結局追及されず、佐伯奈々子自身が新しい体操着を買ったことで一件落着めでたしめでたし。ところが体操着を盗んでいたところをクラスの問題児である仲村佐和に目撃されていたことから事態は一変。春日は仲村に脅迫されるのだが、その脅迫内容が理解不能なことばかりだった……というもの。

正直、クラスのマドンナと何の努力もせずにフォーリンラブというリア充な展開に「ありえねーよ!」という人も多いと思うし、あまり下ネタという下ネタも出て来ないので、童貞マインドを武器にしてるわりに若干しゃれおつな雰囲気があって、そこに嫌みを感じる人もいるかもしれない。

ところが『惡の華』は中学生を主人公にした童貞マンガに見せかけて、実のところ自由意志の問題にまで深く深く踏み込んでいる傑作なのだ。

主人公が体操着を盗んだ相手と交際することになるのだが、仲村はその草食系な態度とは裏腹に潜んでいる男の欲望や変態性を仰々しく指摘して来て、あんたは変態なんだからこんなことを交際中にしてみなさいとドンドン無理難題を押し付けて来る。しかも金銭を要求するわけでもなく、何の見返りもないのに、とてつもない時間と労力をかけ、主人公の奥に潜む偽善や上っ面だけの態度をどんどん暴いていく。その姿たるやまさしく『ダークナイト』のジョーカーそのものだ。さらに塚本晋也監督の『六月の蛇』よろしく、主人公も自分の中にある変態性や衝動のようなものがどんどん表に出て行くことで、それが本当の自分なのか、そして人間の本質がこうなのかよく分からなくなっていき、どんどん変態が開花していく。もちろんスケールこそ小さいし、かなりくだらないことをやっているのだが、この手のマンガでは文学的な香りすら漂っている作品だ。

やめとくれー!

正直、まだ二巻までしか出てないので、作品がどう転がっていくかはまだ分からないが、一巻の時点でこのマンガはこういう作品です!という烙印が押されているので、ベースは変わらないだろう。しかも非常に先が気になることは間違いない。

というわけで、またしてもこれが10位だなんて、このマンガがすごい!にはあまり信用出来ないところもあるが、個人的にはおすすめ。まだ二巻までしか出てないので『進撃の巨人』同様、今からでもすぐに追いつけまっせ!あういぇ。

惡の華(1) (少年マガジンKC)

惡の華(1) (少年マガジンKC)

惡の華(2) (講談社コミックス)

惡の華(2) (講談社コミックス)