果てしなき絶望と一筋の光『ダウン・バイ・ロー』

深町秋生の新刊『ダウン・バイ・ロー』を読んだ。

ダウン・バイ・ロー (講談社文庫)

ダウン・バイ・ロー (講談社文庫)

かつての親友であった遥を、数人のグループでいじめる側にまわってしまった響子。この日も同じように金持ちである遥にたかろうと集まってきた響子たちだったが、遥は「もうホントにお金がないの!」といつもと違う様子を見せる。普段はお金がなくてもATMでおろしたりしている遥だったが、少し負に落ちない点がありながらも、おごってもらって飯にありつこうとしていた響子たちは落胆。しかたなく家路につこうとしたその瞬間、遥は響子たちの目の前で列車が近づいてくる線路に飛び込んでしまう………というのがあらすじ。

「山形マット死事件」をモチーフにしたと著者は語っているが、あくまで事件そのものではなく、その事件の背景にあった人間関係に焦点をあて、響子がスケープゴートにされるという部分を物語に組み込んだ。

一度過去に傷を負った少女が、再び事件に巻き込まれていくというのは『ヒステリック・サバイバー』と同じ構成だが、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』の如く、前半のミステリーから後半のハードボイルドへと変貌していくそのタイミングは絶妙。閉鎖的な町で鬱屈した怒り、やりきれなさを溜め込んでる主人公は深町作品にはかかせないキャラクターであるが、今までの作品の中でも伏線が多めであり、山形の田舎を舞台にしたこともあってか、方言も含めてそのリアリティは群を抜いている。執筆から5年の月日を費やしたというが、東日本大震災を経て、深町秋生の集大成がここに完成したという感じだ。

閉鎖的な田舎町で起こるとてつもなく巨大な何か。それに何気ないところから、一般人がその事件に巻き込まれてしまうというのは戸梶圭太の『闇の楽園』や『なぎらツイスター』を彷彿とさせるが、そこはさすが深町流で、もっとシリアスで乾いており、とてつもなくシャープな仕上がり。血や暴力は幾分控えめだが、内に秘めたモンスター的な部分や、この世に生きてる人間はすべて死ねばいいという思想に傾くなど、狂気の部分は処女作と同一線状であり『果てしなき渇き』を最も愛するぼくとしてはその辺もおおいに気に入った。

『ダブル』や『アウトバーン』に比べると、主人公の苦悩や葛藤が多めに組み込まれているため、物語としては、ややいびつに感じるものの、そのいびつさこそが、この絶望感や閉鎖感を伴う物語にとてつもなく合っている。女子高生という主人公だけの視点で押し切ったことで、ハードボイルドな物語ながら、そこに柔らかさが加わり、筆致としてはまた新たな次元を獲得した。

というわけで、暴力描写が苦手だわーという人にもまんをじしておすすめ出来る深町作品が誕生した。八神瑛子シリーズ共々、今後の作品展開が楽しみである。

関連サイト

http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bunko/afterword/page03.html