ポップな『東京物語』って感じ『海街diary』

是枝監督の「生き死にを商売にしてるように見えるけど、作家性だからしかたないのぉ」という感じが好きじゃないし、少女漫画も片手で数えるくらいしか読んだことがないので、観る気などさらさらなかったのだが、リビングのHDDに入ってたので観た。故に誰が出てるのかもよくわからないという状態だったのでレキシが出てきたときにはホントにビックリして声でた。いまどきこんな状態で注目されていた映画を観るというのも珍しいだろう。

冒頭、印象的に煙突からけむりがモクモクと立ち上がるカットが挿入され、ラストも例の場所で終わり、別れの象徴としてリンゴを買うくせがあるなど、全体的には是枝監督なりの小津安二郎オマージュであり、観てすぐの印象は「ポップな『東京物語』」という感じ。

音楽を抑えめにし、街の雑音を強調することで生活を表現したり、坂口健太郎加瀬亮をキャスティングすることで男の好みが一貫してるというのをうっすら分からせたり、虫を退治しにいくのに新聞紙を丸めていったり、ちゃんと鍋が油でこげついていたり、酒飲みでチャラチャラしてるわりに数字の計算が速いのは何でだ!?と思ったら実は銀行員だったり、細かいところまでものすごく気を配っていて、何から何まで完璧。ウエルメイドってこういうことだよなという見本で100点満点。いいところを言いだせば枚挙にいとまがない。

さすがにこれはキレイに描きすぎだろと思ってしまう四姉妹の関係性も実力とスター性を兼ね備えた女優をキャスティングすることにより、そんなことをノイズにさせず演技を見せる方向にシフト。広瀬すずの殺人的なかわいさもあいまって、事件が起きずとも最後まで見れる……むしろ変な事件なんて起きないでほしいと思わせるほどに魅力的。

ただ、やっぱりというか、原作がそうなのかもしれないが(とはいえ是枝監督はこの原作を読んで映画化したいと思ったので、シンクロしてる部分が強かったのではないかと推測される)、この人の「生き死にを商売にしてるように見えるけど、作家性だからしかたないのぉ」というのが好きじゃないんだなと改めて。若干見え隠れするだけでもこう思うのだからよっぽどなのだろう。もちろん世界的な巨匠やぼくの好きな監督たちにもそういうのはあるのかもしれないけれど、こればっかりは感覚的なもので、お前に言われるとなーみたいなのがどうもあるらしい。ホントにすみません。ごめんなさい。

しかし、この手の……いわゆる「イヤミな大人が一切出てこない世界」系の映画に対して嫌悪感を持つ、ぼくのような人間でも楽しく観れたので、相当うまい、相当出来る子の作品であることは確かだ。自信を持っておすすめしたい。