カンザス・シティ

カンザス・シティ [DVD]

カンザス・シティ [DVD]

『ザ・プレイヤー』、『ショート・カッツ』、『プレタポルテ』と、第二のピークを迎えてから立て続けに傑作を送りこんで来たアルトマンが、“ジャズ”と“誘拐”という決して混じり合わないテーマを群像劇というつなぎで練り込み、ジェニファー・ジェーソン・リーというスパイスを加え「あっ!」と驚く結末で焼き上げた、異色のドラマ。

大恐慌の時代を再現するため細部まで気をつかった美術は完璧、ゆるやかなカメラワークでダイナミックに映しだされる34年のカンザスシティは圧倒的なリアリティを誇る。黒人のギャングに誘拐された夫を助け出すため、大統領候補の妻を誘拐する主人公という設定がおもしろく。ふたつの誘拐が絡んでいくさまは、派手さはないものの、映画的な興奮がギッシリ詰まっている。

この作品、誘拐がメインのわりに、誘拐自体にサスペンス性はない。アルトマンは事件そのものよりもそこに絡む人間にスポットを当て、登場人物が抱える悩みや心の闇をメインにドラマを組み立てていく。そしてそこに『プレタポルテ』や『ショート・カッツ』で見せた空いた口が塞がらないラストを加えることで映画自体を締めているのだ。

映画事態は緩いが、それは音楽の影響もある。全編ジャズによって彩られるこの作品だが、なんと音楽の演奏シーンがそのまま劇中の音楽になっているのだ。メインであるはずの誘拐事件、それを崩しかねないジャズの演奏シーン。このふたつのアンバランスなものが上手い具合に混じりあうことで独特の空気感を醸し出している。大恐慌の時代を演出するのにジャズというアイテムを使ったのはさすがで、雰囲気を楽しむという意味では大正解。緊迫感こそないが、映画を観ている楽しさを感じることが出来る。

そしてなんと言ってもジェニファー・ジェーソン・リーだ。普段役者の演技に目を奪われないぼくでさえ印象に残るすさまじい演技である。あの役作りはなんだろうか。顔の作り方、声の出し方、口元、すべてが独特で唯一無二で、マンガから抜け出してきた様なあのキャラ造形は特筆に値する。派手なキャストではないが、芸達者を集めたことで、リアリティが増し、特にギャングの親玉を演じたハリー・ベラフォンテは経験したのではないかと思うほど素晴らしい演技を披露する。

ハッキリ言うとアルトマンの中ではそこまで人気がある方ではないと思うが、私はかなり好きだ。後期アルトマン作品のなかでもその本気さが感じられる(撮りたかった作品という意味で)。その手腕に素直に酔いしれていいだろう。