ロバート・アルトマンが亡くなった。

まずはこちらをごらん下さい。

ロバート・アルトマンは現役で名作を作り続けてるから”というコメントを書いたあとにミクシィを見たら、ロバートアルトマンが亡くなったというニュースが飛び込んで来た。81歳だそうだ。

私が映画を観るきっかけになったのはジャッキーチェンで、世間がドラゴンボールだの聖闘士星矢だの言ってる時も、私の中のヒーローはジャッキーチェンだった。その後『パルプ・フィクション』という作品に出会い、私は次第に映画の魅力に取り憑かれていった。それはこのブログにも書いた事だが、実は『パルプ・フィクション』とは別にもう1本映画にハマるきっかけになった作品がある。それがアルトマンの『ザ・プレイヤー』である。

『ザ・プレイヤー』はすべてが新鮮だった。冒頭の長回し、プロデューサーと観客によって映画が作られるというハリウッドの内幕を暴いただけでなく、そこに殺人事件を絡め、ミステリー仕立てにした脚本も素晴らしかった。ティムロビンスもこの作品で知ったし、もちろんロバートアルトマンという人もこの作品で知った。だが、一番驚いたのは『ザ・プレイヤー』のラストである。あのオチに私は心からの拍手を送った。

ちょいとここからはネタバレになるのだが、それまでどんな脚本もつっぱねてきたプロデューサーが映画のラストで『いい映画を思いついた』と、『ザ・プレイヤー』のあらすじを話しだす。つまり主人公が体験した事を話すわけになるのだが、べらべらと話した後で「この映画は絶対にヒットするよ、タイトルは『ザ・プレイヤー』…」ここでエンドロールなのだ。このオチは一見意味が分からない。だが、当時15歳くらいだった私にはすごく衝撃的な終わり方で、見た後放心状態にまでなったのだ。

説明すると、この映画は延々ハリウッドのシステムについて語る。どうすればヒットするだとか、そんな脚本じゃあたらないとか、スターがどうしたとか。主人公は映画のプロデューサーであり、いろんなストーリーを聞いては「それはつまらん」と、どの脚本もボツにしてきたのである。そんな鬼プロデューサーが『ザ・プレイヤー』だけは当たると映画のラストで言い放つのだ。自分で撮った映画の主人公、ましてや映画のプロデューサーに『この作品は当たる』なんて、そんな映画聞いた事も見た事もなかったので、すごく驚いた。

その当時、監督のアルトマンという人がどういうスタイルで映画を撮るとかは分からなかったが、その時に最高の皮肉だと思って、愉快になった。その後、本を読んで分かった事だが、ロバートアルトマンという人は『ポパイ』の実写版を撮って、ハリウッドを追放されている。ハリウッドという場所はとにかく金、金、金の世界だ。彼は『ポパイ』をヒットさせる事が出来なかった。どういう契約だったか分からないが、ヒットさせなかったのは監督のせいだと考えたのだろうか。アルトマンに映画を撮らせても当たらないという風になり、彼は事実上映画を撮れなくなってしまう。そのハリウッドやアホな観客に復讐したかったのだろう、彼はそんなバックグラウンドをモノともせずに『ザ・プレイヤー』を完成させる。映画は大成功、評論家筋からもウケがよく、カンヌ映画祭では監督賞と男優賞に輝いた。ヒットしたかどうかは分からないが、アルトマンは90年代に復活を遂げ、そこから『ショート・カッツ』という大傑作を撮る事になる。

自分は映画を大コケさせてしまった、そしてハリウッドを追放された監督。そんな監督がハリウッドはこういう場所だと大暴露し(そんな映画、大手の映画会社が誰も金を出さないだろうし)さらに映画のラストで『ザ・プレイヤー』は当たると喋らせる。そんな背景を知った後でのオチの衝撃はさらにすごかった。つまり私はこの映画のラストに2度の衝撃を受けたのだ。

そこから私はロバートアルトマンにハマっていく。『マグノリア』に決定的な影響を与えた『ショートカッツ』の素晴らしさ。おしゃれなんてくそくらえを思ってる私を勇気づけた『プレタポルテ』ジャズというものがどれだけ素晴らしいかを教えてくれた『カンザスシティ』老いを感じさせない『クッキーフォーチュン』職人監督の腕を見せつけた『相続人』英国の役者が魅力の『ゴスフォードパーク』反戦映画なのに軽いテイストの『M★A★S★H』ヴィルモスジグモントの撮影が素晴らしい『ギャンブラー』そして初めて観た時から人生のベスト作に君臨し続けている『ロング・グッドバイ

特に『ロング・グッドバイ』はプレミアのインタビューでロバートアルトマンにナイスな質問をした人がいて、

インタビュアー『日本ではどのような映画がヒットしてるかご存知ですか?』
アルトマン『いや、全然分からないね、ただ泣ける映画が当たってるとは聞いた事がある』
インタビュアー『実は日本にはそうとうあなたのファンがいるんですよ、ロンググッドバイがあなたの最高傑作だと言う人も少なくありません、あの映画が日本で人気なのは何故だと思います?』

という質問をした人がいて、それを読んでから、絶対に観なきゃと思いつづけてたんですけども、レンタルショップに置いてあるわけないじゃないですか、だから石丸電気まで行ったんですけど、そしたら売ってたんですよ!1700円で!即買いしましたよ。さらに『ロング・グッドバイ』はhackerさんとメッセージをやりとりするきっかけになった作品でもある。というか、『ロング・グッドバイ』が登録されてる事自体ビックリだったんですけどね。

もちろん未見の作品もまだまだあるが、これだけ挙げて、全部外れがないんだからすごい。私はキューブリック黒澤明が亡くなった時は『まぁそうだよなぁ』と思ったが、ロバートアルトマンはホントに悲しかった、マジでこの人の作品をもう観れないんだと思った。アルトマンはウディアレンと同じでコンスタントに作品を作り続けてた。

『Dr.Tと女たち』や『バレエカンパニー』は未見だったが、もちろん観るつもりだった。これからもまだまだ作品が観れるもんだと思ってた。もちろんご高齢ではあるけれども。そうやって現役で活躍している監督、そしてそれが大ファンの監督だったら、やっぱり辛い…今日は『カンザス・シティ』を観ながら喪に服します。合掌。