やっぱり“ハイテンション”だった『ミラーズ』

DVDにて『ミラーズ』鑑賞。

ヒルズ・ハブ・アイズ』で映画ファンの度肝を抜いたアレクサンドル・アジャの作品。『ヒルズ・ハブ・アイズ』も『サランドラ』のリメイクだったが、『ミラーズ』もコリアンホラーの『Mirror 鏡の中』のリメイクである。『Mirror 鏡の中』については以前書いたので、こちらを参考にしていただければ↓

鏡の中に幽霊が居るって、誰か他に思いつかなかったの? - くりごはんが嫌い

『サランドラ』を忠実にリメイクしながらも、独自のシーンを追加して極上のエンターテインメントに仕上げた『ヒルズ・ハブ・アイズ』だったが、『ミラーズ』では、ミステリーの要素と主人公が抱える悩みをバッサリ切り落とし、美しい映像の中でアル中だった元刑事が「こいつ頭おかしいんじゃねぇか?」と周りの人間に懐疑されながら、悪魔に戦いを挑むという大胆な変更を試みている。

ヒルズ・ハブ・アイズ』の雰囲気作りはバツグンにうまかったが、『ミラーズ』でもそれは健在だ。キューブリックのように流れるようなカメラワークとレオーネの『ウエスタン』よろしく、「建物を越えたら、向こうに景色が広がる」というクレーンショットを使い、映像はさしずめアジャ版『シャイニング』と言った印象がある。オリジナルでは以前火災があったとされる新装開店前のデパートだったが、『ミラーズ』では火災があって、そのまんまになっているので、明らかに見た目からして怪しいし、人は一人もいない。この設定のおかげで、序盤からジャックバウアーによる一人芝居が続くのだが、ここが見事だ。映像からはかなりのこだわりが伺える。

あと主人公の悩みをバッサリ切り落としてると書いたが、ドラマ部分の演出のうまさは特筆に値する。怖がらせるシーンよりもドラマ部分でグイグイ引き込まれた。ミステリーを切り落としたぶん、プロットの完成度は若干低いが、それをしっかりした演出で補っているのは監督の力量だろう。普段は役者の演技がどうだろうとちっとも気にしないのだが、『ミラーズ』での登場人物の演技の旨さはピカイチだった。人間がしっかり描けてるからこそのアジャなんだと思い知らされてしまった。

あっと驚く人体破壊描写はアジャ節と言わんばかりで、いろんな人が驚いたであろうアゴ外しのシーンはさすがの一言だ。それ以外は確かに抑えめになってはいたが、一つの作品として考えたら、映像のキレイさとドラマ部分もうまさで一線を画す出来になってたんじゃないだろうか。

ただ、繊細に作り上げた前半と比べると、後半はアメリカのショーケースに仕上がっていて、正直、強引だなぁとも思ったし、鏡の中に居る人間を操ることが出来るという重要な設定も台なしになってるなとは思った。オチもオリジナルより強引で、なんでああなったの?と思った人は多かったんじゃないのかなぁ。

だが、マイナスポイントはそれくらいで、おおいに楽しんだことは事実。これからもアジャにはPTAの神経を逆なでするような良質なホラーを作り続けてほしい。あと人体破壊描写も多めにおねがいね、あういぇ。