歌い踊らない文鳥たちのミュージカル『スリ』

『スリ』をレンタルDVDにて鑑賞。ジョニー・トー監督作。

4人組のスリ集団が、それぞれ街で偶然出会った美女に翻弄されるが、その美女にはとある秘密があり、4人は彼女を助けようと奮闘するというのがあらすじ。

ジョン・ウーが『狼たちの絆』を撮ったような印象の痛快作で、その手触りはまるで往年のヌーベルバーグのような雰囲気。あの『ザ・ミッション/非情の掟』や『エレクション』の監督なのか!?というくらい著しくタッチが違う。

香港の街並の切り取り方が素晴らしく。観光スポットとは別に、ジョニー・トー自身が「これが今の香港だ」と言わんばかりに撮りまくったありとあらゆる場所が映像の軸になっており、主人公の趣味がカメラということもあいまって、自転車でいろんなところをカメラ片手にかけまわるがこれが実に楽しい。冒頭、食堂に入っていって、ひとつのテーブルを囲んで飯を喰い、たわいのない話をするところは『レザボア・ドッグス』にも似ているが、これもホントにこいつらがプロのスリ集団なのか?と思わせるいい前フリにもなっている。そりゃスリの集団だって部屋に入り込んできた文鳥の話くらいはするのだ。

ロケを多用し、スリの技を丹念に見せるということで、否が応でもブレッソンの『スリ』を彷彿とさせるが、基本的に作品はフランス映画のかほりがプンプン。インタビューによると『シェルブールの雨傘』からヒントを得たらしいが、確かに音楽はミシェル・ルグランのそれを彷彿とさせ、主人公たちが歌い踊らないミュージカルというコンセプトで製作されたゴダールの『女は女である』よろしく、キャラクターたちが愉快に街を闊歩するカットがよく出て来て、そこに軽快なフレンチポップがひたすら流れ続ける。

こんな感じで一台のチャリに全員で乗ったりする。

が、しかしクライマックスのスリ対決はさすがのジョニー・トー節炸裂。スローモーションを使いながら、ジョン・ウーとはまるで違うタッチでアクションシーンを演出。強烈な様式美に彩られたこのシーンは言葉では言い表せないほど美しく、映画的興奮の見本のような出来。是非このシーンはそれぞれに確認していただきたい。

なんであの女の人が主人公たちのスリ集団のことが分かったの?とか、スリ集団がボコボコにされる理由が良く分からないとか、あと助けてほしいくせにスリ集団全員を誘惑して、もてあそぶだけってのも意味不明でその辺で少し引っかかったが、やはりおもしろかった。しゃれおつなジョニー・トー作品としておすすめです。あういぇ。

スリ [DVD]

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