至福の4時間『愛のむきだし』

かなり遅ればせながら『愛のむきだし』をDVDで鑑賞。

Twitterでの映画クラスタオフ会で「長い映画が苦手で『アバター』すら観てない」という話になると、必ずや引き合いに出され話題になるのがこの『愛のむきだし』という作品。そりゃそうである。この作品はなんとランタイムが4時間もあるのだ。

ところがである、そのときにたいがいみんなから出てくるのは「あの映画に関してはそこまでの長さを感じない」というお言葉であった。それでもなかなか食指が伸びなかったのだが、この作品の監督である園子温の新作『冷たい熱帯魚』が三月末に新潟でも公開されるとのことで、予習も兼ねてようやく観るはこびとなった。


――――なるほど。口をそろえてみんなが言うのも納得。確かにランタイム4時間はまったく感じられない。それどころかちょっとした感銘すら受けたし、こういう問題作といわれる作品に対しては常套句になってしまうんだろうが、まぁ衝撃的だった。少なくてもぼくにとってはだが……


ストーリーは各章に別れており、神父を父に持つユウとその父の奥さんになる人の連れ子であるヨーコの二人が物語の中心。ユウは妹となるであろうヨーコに初めての恋心と性欲を持つが、そこに若くして新興宗教団体の幹部クラスとなったコイケが近づいてきて、ヨーコもろともユウ一家を洗脳し、宗教団体に引きずり込む。ユウはヨーコと一家を取り戻すべく、単身戦いを挑んでいくというのがおおまかなあらすじ。

映画はユウの目線で始まり、一時間してようやく『愛のむきだし』というタイトルが出る。そしてそこから物語が動き出していくのだが、ユウだけじゃなく、ヨーコとコイケのバックグラウンドもきっちり描き、それがすべてエクストリームな展開なので間延びすることなくグイグイ引きつけられていく。それだけでなく時間軸のズレや各キャラクターの視点でひとつの場面が何度も出て来るなど、とにかく観客を飽きさせないような凝った作りで「早く先が観たい!」と思わせ、さらに純愛をテーマにしながら映画はバカバカしいほどのオフビート感で、アクション、サスペンス、家族ドラマ、コメディ、下ネタ、バイオレンス、カンフー、チャンバラ、詩的な映像表現など映画におけるすべての要素を内包し、ジェットコースターのように4時間のランタイムを全力で駆け抜ける。

浮世離れしていて、下ネタを下ネタに感じさせない青年としてキャスティングされた西島隆弘がほぼ完璧。この作品で一躍トップ女優に躍り出た満島ひかりもすこぶるチャーミングで、感情が爆発した瞬間にクローズアップと引き絵を組み合わせたり、長いワンテイクを使うなど、彼らの演技をギリギリまで引き出した園演出はやはり素晴らしい。

確かに一本の映画としては著しくバランスを欠いているが、その歪な形が映画の主題をなぞってるようにも思えた。ウソと本当、キリストと新興宗教、優しさと暴力、愛とエロ、罪と罰、神と人、それぞれ相反するようで表裏一体のものを映画を通して我々に問いかけて来る……そんな力と勢いを感じた。特に中盤から出て来る愛!愛!愛!の連打に涙腺が決壊!それでいて、まったく押し付けがましくなく映画はとても爽やかな余韻を残して終わる。

好き嫌いは別にしてもとりあえず観たいと思ってるならば絶対におすすめしたいそんな一作であった。こんなことを書くとまた各方面からツッコミが来そうでアレだが、個人的には『七人の侍』や『太陽を盗んだ男』に並ぶ、邦画の一大エンターテインメントだとも思った。カルト化も必至。否定的になる意見も当然あるだろうが、確信犯的に賛否両論を狙った作りも含めて支持したいと思った。あういぇ。

愛のむきだし [DVD]

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