神無き世界の神、それは親『ツリー・オブ・ライフ』

ツリー・オブ・ライフ』鑑賞。

奥田民生の楽曲に“アーリーサマー”というものがある。

民生自身、歌詞にこだわりはないと公言しており、楽曲(特に歌詞の内容)について語ることは少ないのだが、まだ鳥越俊太郎との対談番組であった「僕らの音楽」において、彼は“アーリーサマー”についてこんなことを言っていた。

鳥越「(次に演奏する楽曲)アーリーサマー、早い夏ということですけれども」


奥田「ま、あんまりタイトルと内容はそんな関係ないんですけど」


鳥越「あなたの曲そんなんばっかじゃない!でも、ホントはあるんでしょ?」


奥田「まぁね……えー、花火をしててですね、楽しいなぁと言ってるけれども、宇宙規模でそれを見たら、なんてセコいことしてるんだと。まぁ、そういう意味合い……星から見れば星の方がキレイなのにと」


鳥越「なるほどー……すごいなんか、哲学的な話だな。花火と宇宙ですか」


ツリー・オブ・ライフ』を観終わった時、すぐにこの曲のことを思い出した。日本版の主題歌はこの曲でもいいくらい、映画の内容と歌詞が妙にシンクロしていたからだ。つまり奥田民生がしれーっと考えて歌にしていたことは、あの映画の中でショーン・ペンが2時間以上も空想していたこととほぼ同じなのである――――と言っても、日本人とアメリカ人の違いはあるが……

ストーリーはほぼ無いに等しく、宇宙が出来て、地球が出来て、生命が出来て――――という一連の流れを、ブラピ一家の物語の中に断片的にインサートさせ、その後、家族の話にまるまるフォーカスを当てたと思ったら、またグルっと一周して、成長した長男:ショーン・ペンが、それらに思いを馳せてるといったような構成。死から想像した生という諸行無常がそのまんま円還構造になっている。

「生命とはこうやって出来ました」ということを「神の不在」で描いているが、映像は「神の視点」であるため、どうとでもとれるようになっていて、そのストーリーの無さも含め、確信犯的に賛否両論を狙った節すらある。人間の記憶や想像というのは、断片的なイメージの連続性であり、そこにストーリーなどは存在しない。タルコフスキーが『鏡』において、それを映画で表現したことがあったが、作品のトーンはそれにかなり近い。

今まで「こんなに壮大な大自然に比べ、人間はなんてちっぽけなんだろう」ということを繰り返し描いてきたテレンス・マリックであったが、今作では「それでも人間も生命のひとつであって、しっかり存在しているよね」という視点が加わった。それが証拠に家族ドラマパートでは、静止画のような美しい絵をひとつも使わず、ローアングル気味のグラグラ揺れる手持ちカメラで、引いたり寄ったりを繰り返し、まるでホームビデオのそれのように描いているのが特徴。ここに神々しさはなく、どちらかというと人間臭いドラマが繰り広げられる。

「神無き世界」の誕生を描き、その神無き世界で生まれた人間のパートで描かれるのは、神無き世界での自由意志の問題だ。

神無き世界において、神とは何か?それは人間を支配する者である。幼少期に自分を支配する者と言えば、親の存在だ。その親の絶対的な支配下に置かれた時、もし子供=人間が反発を覚えたらどうなるだろう?というのが、後半のパート。

ただし、その神はやはり人間であるため、一方的な断絶は描かれず、一応の決着をみる。そして、自由意志を見せたはずの息子は結局その神=親のレールを……というこれまた円還構造。

――――と、断定するような感じでつらつら書いて来たわけだが、あくまでこれはぼくが思ったことなので、あんまり参考にせず、自分の目でどういう映画だったのか?を確かめてみるのが良いと思われる。このご時世にこういう映画を叩き付けて来るのは良いことだと思うし、何よりもスクリーンで『2001年宇宙の旅』的なものを体験出来るのはもうしばらく訪れないかもしれない。

ハッキリ言って、この作品を「つまらなかった」「眠いだけだった」と切り捨てるのは容易い。だが、ブラピが制作に名を連ね、テレンス・マリックがこういう映画に仕上げてきた以上、そこに何かしらの意図があるはずだ。

映画というのは、ただ単に映ってるものを眺めて終わるというものと、全てを明らかにせず、映ってるものから何かを読み取り、その後に考えて、その映画がより豊かになるものの二種類に分かれる。『ツリー・オブ・ライフ』は完全に後者であるが、「ここで、はい泣いてくださいねー」というガイドラインがある映画が溢れているこの昨今、たまにはそんな歯ごたえのある作品を観て、「あの映画はなんだったのか?」について考えるのもいいだろう。つまらなくても、それなりにみんなでワイワイ言い合える解釈の余地があるわけだし、あういぇ。

関連エントリ

『ツリー・オブ・ライフ』 - うろおぼえ日常

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