すれ違い映画の極北『ターンレフト・ターンライト』

ターンレフト・ターンライト』をDVDで鑑賞。ジョニー・トー × ワイ・カーファイの共同監督作品。

売れないバイオリニストの金城武と海外文学を翻訳する会社に勤めるジジ・リョンは学生の時にサマーキャンプで一度出会い、互いに惹かれ合うものの、学生番号しか聞けず、はなればなれになっていた。そんな二人が大人になり、運命の再会を果たす。互いの気持ちを打ち明けながら、昔話に花を咲かせたのもつかの間、家賃を滞納していた二人はそれぞれの大家さんと偶然遭遇してしまう。大雨の中、急いで電話番号を紙に書いて交換し、彼らから逃げるように帰宅するものの、なんと大雨の中メモした電話番号は字がにじんでほとんど消えていた……というのがあらすじ。

互いの気持ちを知った男女が、ひたすらにすれ違って、すれ違って、すれ違いまくるラブコメディ。十数年単位ですれ違いまくるラブストーリーといえば、同じ香港映画で『ラヴソング』という大傑作があるが、あれにウォン・カーウァイの『恋する惑星』を練り合わせたような印象。ポップでキッチュでかわいらしく、ドタバタと繰り広げられるが、非常にマッドなテイストもあり、その辺さすがワイ・カーファイ節と言える。

ブコメディのテンプレを徹底的にやるとこうなると言わんばかりに、この作品では主人公二人の男女がとにかくすれ違う。それは「気持ちがすれ違う」とか「一緒に生活していて、リズムがすれ違う」というわけではなく、文字通り物理的にすれ違うのだ。よく数回偶然出会って「これは運命ですね」なんてのはよくあることだが、この映画ではそれを逆手に取り、ここまですれ違うならば、この二人はもしかしたら、延々と出会えない運命の元に生まれて来たのでは?という反語としてストーリーを構築している。ここまで徹頭徹尾すれ違うのはフィクションにおいても早々無いが、ワイ・カーファイ自身が映画を「普通のものにしたくない」と公言してるだけに、彼の心情がこの設定で活かされたと言える。

基本的に映画は金城パートとジジ・リョンパートに別れていて、彼らの行動を反復させていく。「ターンレフト・ターンライト」とはよく言ったもので、金城は右、ジジ・リョンは左と、同じ行動をしているのに、まるで鏡に向かい合ってるように真逆に映し出されていく。キューブリックがよくシンメトリーを映像に使っていたが、あれをまるまる映画にしてしまったということだろう。

どう考えても脚本を作らずに撮影に入ったとしか思えない、その場の思いつき的なシーンも存在する。特に冒頭、金城武に一目惚れした女の人が、その後まったく登場しないとか、完全に投げやりになってる部分も散見される。ジジ・リョンを追いかけてた死神や、彼らが乗ったメリーゴーランドをわざわざ持って来るとか、説明不足のシーンもかなり多く、ハッキリ言ってガタガタの出来である。

ジョニー・トー監督と共作になっているが、その作風は映画同様あきらかにすれ違っている。プロットやコメディ部分はいわゆる香港映画のショーケースであり、いびつでアナーキーな作りなのだが、映像は妙に美しく、カメラワークもかなり凝っているのだ。

作品は同名の絵本を映画化したようだが、映像は絵本というよりもコミック的な構図をひたすら見せていく。流麗なカメラワークはまるで空から神様が二人を運命のイタズラでもてあそんでるような雰囲気を醸し出し、地に着いたようなところでは地面からなめまわすように撮ったりと、その映像は縦横無尽。冒頭、雨の中を二人がやはりすれ違うというシーンが出て来るのだけれど、このシーンもジョニー・トー監督の『スリ』を彷彿とさせた。

さて、ここまで書いておいてなんだが、この作品、とてもおもしろい。その徹頭徹尾のすれ違いも見ててハラハラするし、何よりも作風にあってないキレイな映像を見てるだけでもウットリする。そもそもストーリーがまっすぐ進んでくれないという予定調和のない恋物語というのは、それそのまんま普段ぼくたちが恋愛として体験することであり、それを極限まで純化させてパロディ化しただけにすぎないのではないのか。

まぁ、若干無理矢理褒めた感もなきにしもあらずだが、それくらいおもしろかったということだ、それにウソはない。ラブストーリーが苦手な人もおすすめ。あとオチがすごいっす。とってつけたような終わり方にお口あんぐりなので、そこにも注目していただければなとあういぇ。

ターンレフト・ターンライト 特別版 [DVD]

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