ザ・フーだけでなくロックの歴史まで追う『アメイジング・ジャーニー』

ザ・フー アメイジング・ジャーニー』をDVDレンタルで鑑賞。

イギリス4大バンドであるザ・フーの結成から現在までを総括したドキュメンタリー映画

ドキュメンタリーでありながら演出がかっこよく、LPレコードをプレイヤーにかけ、そのレコードの曲のタイトルがそのままチャプタータイトルになっており、ドラッグにハマっていたことを告白するシーンでは映像がバッドトリップした感じになったり、ライナーノーツがメンバーの生い立ちになっていたり、さらに近年作られたビートルズのドキュメンタリーのようにアルバムのジャケットをCGによって立体的なアニメで見せるなど、とにかくすべてにおいて凝った作り。ライブ映像や貴重なTV出演シーンなどもたっぷり入っており、さらに彼らに影響を受けたアーティストたちのインタビューなども差し込まれる。

メンバーがどのように集まって、どのように音楽的な変化を遂げていったのか?というのがうまく二時間にまとまってるだけでなく、ドラッグにおぼれていた日々や児童ポルノ関係で逮捕されたこと、さらにジョン・エントウィッスルの晩年など、タブーとされてるところにまでつっこんでるのも特徴。その辺もドキュメンタリーとして潔いなと思ったし、関係が悪いとされてる人やバンドにあわないと解雇された人までインタビューに答えているのがすごいと思った。ザ・フーというバンドを認め、さらに歳を取って全員が丸くなった証だろう。

メンバーの死を乗り越えて、音楽的な関係を越えていくロジャーとピートの言葉の重みはすさまじく、たかだかインタビュー映像なのに涙が出るほど感動的で、映画が終わる頃には誰もがザ・フーのことが好きになること必至。ザ・フーの再始動が浪費を止められないジョンのためだったというのもバンドの絆を感じさせたし、バンドに対するスタンスが全員それぞれ違ったという事実にも驚いた。

さらにこのドキュメンタリーが素晴らしいのは、ザ・フーの歴史を追っかけると同時にロックの歴史も紐解いているということだ。

実際ザ・フーなどがデビューしはじめた65年以前には模範にしなければならないロックバンドが皆無で、本人たちもアンプを破壊したり、モッズの扮装をしたり、パフォーマンスも含めて、試行錯誤しながらロックを成立させていた。音楽的な教育として、幼少期は大人の音楽として流行していたジャズから入り、イギリスでのスキッフルの流行から、ブルース、エルヴィスの登場、そこから若者のためのロックンロールへと音楽的な嗜好が変貌していくわけだが、そのメンバーの音楽的嗜好がそのままイギリスでのロックの歴史と密接に関わってる点が興味深い。

特にザ・フーは『トミー』でコンセプトアルバムの可能性を押し進め、ロックとオペラを融合させ、組曲のように構成したり、さらにはテクノがなかった時代にシンセサイザーでフレーズを作ったり、ハードロックの礎となる『フーズ・ネクスト』を制作したり、『四重人格』でモッズリバイバルを起こしたりと、ロックという文化の中心にいたバンドなだけに成立するドキュメンタリーだと思う。まぁこれはストーンズビートルズでも同じことが言えるだろうが。

というわけで、ザ・フーに興味がない人もドキュメンタリー映画として楽しめるのでおすすめ。個人的に『トミー』はそこまで好きではなく、『四重人格』の方が画期的だと思っているので、その辺のエピソードが少なかったのが残念であったが、それ以外は文句なし、その年に観ていたら間違いなくベストワンだ!あういぇ。

四重人格 ?ディレクタ?ズ・カット<スーパー・デラックス・エディション>

四重人格 ?ディレクタ?ズ・カット<スーパー・デラックス・エディション>

そういやぁ『四重人格』のスーパーデラックスエディションなるものが出たんだった……ほ、欲しい……でもさすがに1万は高いよなぁ……