『コズモポリス』をレンタルDVDで鑑賞。
実は輸入盤を『ホーリー・モーターズ』と一緒に購入したのだが、リムジンに乗って延々会話するので内容がさっぱり分からず、開始40分でギブアップした。そんなこんなしてたらすでにレンタルが開始されていてその早さに驚く*1。
映画は主人公とボディガードのこんな会話からスタートする。
「髪を切りたい」
「プレジデントが街に」
「関係ない。床屋へ行く。街を横切らないと」
「渋滞にぶつかり進めません」
「どこのプレジデント(社長)だ?」
「合衆国大統領ですよ、あちこち交通規制が」
わずか1分程度のやりとりだが、ずばりこれが『コズモポリス』のあらすじである。
生活に必要なすべてがそろった巨大リムジンに乗り込み、為替市場などをデーター化し、巨万の冨を得ていた主人公が、投資した中国の“元”の価格を読み切れず、破産に追い込まれるまでの一日を描く。
原作もあるし、企画先行の雇われ監督のようで、本人が意図してる部分は少ないかもしれないが、何でも揃ってるスーパーリムジンが象徴するように、何もかも手に入れたはずの主人公が実は空虚であり、そんな彼が最終的に子供のころにお世話になったであろう“床屋”に向かうというプロットはまったく作風は違えど『市民ケーン』を彷彿とさせた。
それこそ同じリムジン映画ということで『ホーリー・モーターズ』と似ていると話題になったが、実はジム・ジャームッシュの『リミッツ・オブ・コントロール』と構成はまるかぶりで、主人公はホストとなり、ゲストを招いて、ひとりひとりと哲学的なやりとりを延々続ける。それがこの映画のキモである。あとこれは深読み以外のなにものでもないが(いや、これまでも深読みだったのだけれど)、巨万の冨を得た若造が本当に欲しかったものを手に入れてないというのは『ソーシャル・ネットワーク』でもあり、生きる実感が沸いておらず、その実感を得るために(結果的に)破滅に向かうというのは『ファイト・クラブ』のようでもあった。だからといってフィンチャーに似てないのもすごいが*2。
さて、そのキモとなる役者たちのやりとりだが、言葉のひとつひとつが緊張感に満ちあふれ、全編名言の応酬でちっとも飽きなかった。ぼくは日本語吹替版で観たのだけれど、劇場で観た方ももう一度吹替で観ることをおすすめしたい。というのも字幕だと明らかに言葉が足りてなくて意味が違ってくるシーンも多々あり、特にラストのポール・ジアマッティとの会話は吹替で観るとより両者の哀しみが際立ったからである。フィルモグラフィ上でいえば主人公はヴィゴ・モーテンセンでもよかった気はするが、年齢からいくとロバート・パティンソンで正解だと思うし、彼も見事に演じていて、その演技だけでも見応えあり。彼の大ファンを公言し、実際にインタビューをした前田敦子もどのように観たのか気になったくらいだ*3。
いろんな人がブログで指摘しているように、コルク材や左右比対称、直腸検査、そもそもリムジンに乗ってるという設定など、すさまじいメタファーのレイヤーによって掘っても掘っても底が見えない作品で、すべてを理解しているか?と聞かれればNOと答えるだろうが、それでも映画のおもしろさだけ切り取ったら文句なしに今年のベストの上位に食い込んでくる大傑作。ぼくが他の人以上にこの映画に興奮してたのは吹替によるものかもしれない。それくらいひとつひとつの言葉が突き刺さってきて、「お前パソコンの前に座って株の動きを見てるからといって世界のすべてがわかったと思うなよ」と言われてるようでドキドキしました。いや、株とかやらないんだけれども。
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- 出版社/メーカー: 松竹
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