ICHI


10時より『ICHI』鑑賞。綾瀬はるか主演の女座頭市である。盲目というハンディキャップがあるにもかかわらず、人一倍研ぎすまされた感覚と、仕込み刀による逆手の剣術で並みいる強敵を打ち負かしていくという。ある意味、ゴジラに並ぶ日本映画界が世界に誇る特殊なキャラの1人。耳が良いのと関係あるか分からないが、賭博にめっぽう強く、按摩さんをしながら各地を放浪。そこで出会う人々との悲喜劇とライバルとの一騎打ちがストーリーのメイン。演じたのは勝新太郎で、勝自身の思想や哲学が反映されたキャラクターは、勝以外の配役は考えられないと思われたが、北野武がそれに挑戦し、ベネチア映画祭の銀獅子賞をとったのは記憶に新しいところ。

勝新太郎からビートたけしが演じ、そして今回のリメイク版では綾瀬はるかが演じるという、誰もが考えつかなかった発想*1でリメイク。ワーナーブラザーズの制作、配給である事から、やっぱりアメリカ人って、女の人が刀を持ってバッサバッサと血しぶきをあげながら立ち回るのが本当に好きなんだなと実感する。

今回の“座頭市”は以下の変更点が見られる。

・当たり前だけど、主人公が女になった。
・賭博をしない(「ちょう」か「はん」か当ててるだけ)。
・按摩さんじゃない。
・「めくら」とか「あんま」などの、差別用語が一切出てこない。
・市の生い立ちから、過去、さらになぜ旅をしているのかといった理由まで出てくる。
・市と名乗りながらも、そんな強くない。
・子供はうるさく、さらに大人は薄汚いという理由で、基本的に人とのかかわり合いを避けている。
・普段ヘラヘラしているのに、いざという時に強い今までの市に比べると、普段から鋭い眼光でギラギラしている。

これが今までの座頭市からの変更点だ。この違いがおもしろいのか?おもしろくないのかは、観た人に任せるとして、良くも悪くも個人的に引っかかった点を書こうと思う。

大沢たかおのキャラ

『ICHI』には主人公が2人いる。女座頭市である綾瀬はるかは口数が少なく、人とのかかわり合いを避けている為に、大沢たかお狂言回しの役になっているのだが、この大沢たかおトラウマのせいで刀が抜けないというキャラになっていて、さらに木刀だと負け知らずの剣客という特異な設定である。そのため、ここぞ!という大事な時に刀が抜けず、気絶させられたり、市に助けられたり、という情けないヤツなのだが、刀が抜けないっていうアクションをオーバーにやるもんだから、てっきり、刀を抜くと椿三十朗のように危ないので、抜けない刀を持たされてるもんだとばかり思ってしまった。実際、最初に出て来た時は、足がガクガク震えているので、戦いが怖いのかと思ったが、そんな事もなく、後半では相手が振り回す刀をビュンビュンと避ける身のこなしである。その時点で「どっちなんだよ!」なのだが、せめて刀が抜けないならば、落ちてる刀で戦うとか、それこそ、木刀を持ち歩いて、それで戦えばいいのに!!

大沢たかお大活躍

んで、そんな大沢たかおだが、それこそ『燃えよドラゴン』におけるローパーのように市とタメを張る活躍を見せ、なんと、最後の最後では市が画面には登場せず、大沢たかおが大活躍。私は『燃えよドラゴン』は大好きな作品なのだが、ブルース・リー以外のシーンは要らないと今でも思っていて(ジム・ケリーとアンジェラ・マオとオハラはいる)さらにジョン・サクソンがどう考えても要らないと思っている人なので(白人と中国人が人種を越えた友情を見せるラストに必要だったとは言え)今回の大沢たかおのポジションに疑問を感じる。『燃えドラ』のローパーはハンの事は倒さないが、今回の『ICHI』は…

「めくら」とは呼ばれない市

上記でも指摘したが、なぜめくらと呼ばれないのだろう?私は今の時代に合わせた映画の演出が好きではない。『ALWAYS 三丁目の夕日』は好きな作品だが、唯一許せなかったのは、酔っぱらった医者が原付を押して歩いて帰っていたシーン。昔の人は絶対に飲酒運転して帰ってただろ!まぁ、懐古主義というか、ファンタジーとして見れば文句も出ないのだろうが、金髪にしようが、杖を赤くしようが、下駄でタップしようが、こういう部分は徹底していた北野武は偉い。

まぁ、他にも中村獅童竹内力だったら、竹内力の方が強そうとか、窪塚洋介が明らかに2000年代の若者だったりとか、何故か野盗のくせに服がカラフルとか言い出したらキリがないので、止める。

個人的に好きだなぁと思ったのは、綾瀬はるかの横顔だ。『ICHI』で綾瀬はるか横顔しか見せていない、と言うよりは正面の表情がないのだ。そして、その横顔の美しさったらない。往年の名女優のようなキリッとした美しさがある。よく言えば『河内山宗俊』の原節子のような、輝いてて、キリっとしてて、女らしいというか、これぞ日本の女優って感じの顔だ。これは『僕の彼女はサイボーグ』では感じなかった魅力である。これは監督が横顔で行こうと決めたのか?それにしても見事だ。映画のラストで市は笑顔を見せ、自分の道を歩き出す。カメラは回り込むように市を左から正面に捉えようとするのだが、、、やっぱりここでも、微妙に斜め!ここまで徹底して横顔にこだわる映画も珍しいんじゃないだろうか。

しかも冒頭で佐田真由実があんあん言ってたり、綾瀬はるかも微妙に横チチが出てたり、血はブシュブシュ出るし、微妙に切り株はあるし、『ウエスタン』のように宿場の全景をクレーンで撮ったりして、絵的にはなかなか良い。女座頭市だけにもっともっと良い作品になり得た気はするが、今の時代に作るには限界があるんだろう。それでも、もしかしたら西部劇のようにこのままでは忘れられていくジャンルになってしまうかもしれない時代劇を現在のキャストでやりきるというだけでもたいしたもんだ。海外の出資があったとは言え、もっと日本人は時代劇、いや、チャンバラ映画を見なきゃならん。だからタランティーノが『キル・ビル』作っちゃうんだよ。

とりあえず私は『ICHI』を応援します。というか、あくまでエピソード1にして、これで2を作っていただきたい。それくらい綾瀬はるかはかっこよかったと思う。

あういぇ。

あ、あと、綾瀬はるかってグラビアしてたんですね。知らんかった。すげぇかわいい。

*1:後で調べたら「めくらのお市」というタイトルでドラマ化してたようです