腹八分目の魅力『ソウル・パワー』

『ソウル・パワー』をUK盤BDにて鑑賞。

74年、後に“キンシャサの奇跡”と呼ばれるボクシングのタイトルマッチを盛り上げるため、前夜祭として“ブラック・ウッドストック”とも呼ばれる野外フェスが3日間開かれることになり、アフリカ系のアメリカミュージシャンがアフリカに招集された。後にこの試合は『モハメド・アリ かけがえのない日々』として映像化されるのだが、そのドキュメンタリーから抜け落ちた「音楽フェス」の部分にフォーカスを当てたのが本作『ソウル・パワー』である。

それにしても『ソウル・パワー』とは良く名付けたものだ。この作品はそのタイトル通り、ソウルフルなパワーに満ちあふれている。

前半、フェスを開催するためのゴタゴタや緊迫感を余すところなくギュウギュウに詰め込み、そのまま現地のミュージシャンとの温かい交流を捉え、そしてクライマックスの音楽祭へと移行していく。ドキュメンタリーと聞くと、当時のことを回想しながら、今現在のインタビュー映像なんかが差し込まれたりするが、この作品ではそういった小細工はいっさいなし。当時の映像だけを使い、フェスが開かれるまでの流れとフェスそのものだけに焦点をしぼり、それをスリリングに編集している。その編集のテンポもあって、ノンフィクションであるにも関わらずフィクションを観ているような気分になる。

特にクライマックスの音楽パートはそのスリリングな前半に呼応するかのごとくパワフルで、演者の豊かな表情やほとばしる汗までも絶妙なカットで映し出す。

スピナーズやクルセダースのグルーヴ感で盛り上がり、ビル・ウィザースとミリアム・マケバはじっくり聴かせるなど、緩急織り交ぜる音楽パートも見事であるが、個人的にB.B.キングの登場で泣いた。ブルージーなフレーズを例のルシールと呼ばれるギターでしれーっと弾きこなし、フィンガースナップをしながら顔をクシャクシャにしてソウルフルに歌いあげる――――

かつて映画を観ていて、こんなに多幸感に包まれることがあっただろうか。

一番の見どころであるジェイムズ・ブラウンに至っては、もうこの世にいないということもあり、その未公開の映像/フィルムが引っ張り出されてきたということで、ブルース・リーの『死亡遊戯』のような、何か崇高なものを観ている気分であった。しかもファンクなビートに乗せてグリングリン動きまくるので、この映画は音楽フェスのドキュメンタリーと言いながらも立派なアクション映画だったりするのである。

とてつもない情報量が詰め込まれているが、なんと映画は90分しかなく、ジェットコースターのように次から次へと展開がやって来てあっという間に終わる。観た者誰もが思っただろうが、エンドクレジットが始まった瞬間「もう終わりかよ!まだまだこれからじゃん!!!」と叫びたくなること必至のスピード感である。

さらにこの作品、ブルーレイの画質と音質が素晴らしく、本当に良い仕事をしているので、是非ともブルーレイでの鑑賞をおすすめしたい。日本盤は残念ながら発売されてないので、海外盤になってしまい日本語字幕もないが、レンタルがあるところならば、レンタルして一連の流れを覚えてから観れば問題ないだろう。

粒子の荒いフィルムの質感を残しつつ、汗のひとつひとつ、ギターの弦、一本一本までクッキリ見えるような高画質。さらに音もとても74年に録音されたものとは思えないほどクリーン。DTS-HDサラウンドは5つのスピーカーに振り分けられても、音楽的に違和感が生じないように細かく設計されている*1

ハッキリ言って全体的に短すぎる!という不満もあるが、逆に腹八分目くらいが丁度いいのかもしれない。うまいもんも食いすぎると飽きるというアレである。ぼくは元々ブルース/ソウルミュージックが好きな方なので、食い過ぎて満腹通り越すまで食べたくなったわけだが………

というわけで、この手の音楽なんて知らないという人にも一本の映画としておすすめ。スリリングな展開と演者のパワフルな躍動を見るだけでとにかく元気出ます。あういぇ。

Soul Power

Soul Power

関連サイト
映画『ソウル・パワー』公式サイト
2010-06-21 - ゾンビ、カンフー、ロックンロール

*1:普通この手の音楽系ブルーレイはサラウンドシステムで鳴らすと観客の声が過度に響いたり、ギターやベースの音があっちゃこっちゃになったりしてバランスが悪い