「アルバム勝負」はしているけれど…レディオヘッド『ザ・ベスト・オブ』

こないだ中古CD屋さんに行ったら、レディオヘッドのベスト盤が目についたんですよ。

ザ・ベスト・オブ(2CDエディション)

ザ・ベスト・オブ(2CDエディション)

最近もカバー曲無料ダウンロードとかやってたし、またちょこちょこ聴いてまして。

ぼくはレディオヘッドが好きか?と聴かれると、うーん……と奥歯にモノがはさまってしまうんですが*1、それでも一応アルバムは全部iTunesに入ってるんで、出た当初はまったく興味なかったんですけど、ホントになんとなーく手に取ってみたんですね、そしたら、すごく選曲が良くてビックリしてしまいました。

いわゆるこの手のベスト盤って「あれも入ってない!これも入ってない!こんなのベスト盤じゃねぇよ!」となってしまうじゃないですか?ところがレディオヘッドのベスト盤は耳障りのいい、いわゆるキャッチーなモノがそれぞれのアルバムからバランスよく選ばれていて、大いにアリなんじゃないかと思いましたよ。

とりあえず帰って調べてみたら、どうやら本人たちはこのベスト盤に一切関わっておらず、レコード会社との契約が終了したので、本人の意図とは関係なく出たみたいなんですね。ちょっと前の宇多田ヒカルのベスト盤騒動と同じ感じでしょうか。

熱狂的なファンが多いバンドですし、Amazonのレビューを見てもそういう背景があるのか基本的には賛否の否が多めという感じでした。ぼくも「ベスト聴くくらいだったら脂の乗った時期のオリジナルアルバム聴けよ」という考え方なので、まぁ致し方ないでしょう。ただ、その中で気になる意見がいくつか出てましてね。

RADIOHEADの場合、シングルヒットを連発するタイプではなく、アルバム単位で勝負するアーティストなので、ベストアルバムが馴染まないのは確かである。

レディオヘッドの曲はどちらかというとアルバムごとに聴いた印象が異なっており、アルバム全体を通して聴くことによって分かる構成美があったはず〜(略)トム・ヨークの、レディオヘッドの才能をバラバラに壊してしまうような作品は出して欲しくないと切に願う。

このアルバムはいろいろなアルバムの曲が全て詰め込まれてしまっていて1曲1曲の魅力が薄れてしまっているように思える。

レディオヘッドのメンバーは、これまで、曲自体ではなく、あくまで「アルバム勝負」をしてきたのだ。

これらを読んで「果たしてそうかな?」と思ったんです。そもそもレディオヘッドは今まで「こういうアルバムを作ろう」というコンセプトの元にアルバムをそんなに作ってなかったと思うんですよ。むしろ、曲をポコポコ生み出して、それをまとめるというのが多かった気がするんです。

例えば、『OKコンピューター』の場合。

「実は特定のプロジェクトをやってるって感じでもなかったんだよね。みんなで腰を落ち着けて作ったわけじゃなく、すごい時間をかけてレコーディングした中から、ベストの出来の曲を選んでアルバムにまとめたわけだから…」


「つまり曲単位で作業してたってことなんだ。マテリアルが大量にたまってきたある日、ジョニーがスタジオにやってきて『もう十分だ。いい加減アルバムを作らなきゃだめだよ。こんなこと永久にやってられないだろ』って言いはじめてね。」

とインタビューで答えてます。さらに『キッドA』の場合。

「勝手に一枚揃ったっていう感じだったんだ。一番最初にみんなに聴かせたい曲はなんだろう?“Everything In Its Right Place”だよな。その次に来るのは?“Kid A”じゃん。ごちゃまんと曲があって、一体どうするんだよってさんざん言い争ったあげくがこれだよ。“Kid A”の次は?そりゃ“The National Anthem”だ、当然だよ、よしよし――――そういう感じで終わりまでいっちゃってたいして時間もかからずに並んだんだ。」

その『キッドA』のレコーディングで大量に生まれた曲から派生して出来たという『アムニージアック』の時も

「『キッドA』は一枚通してっていう作品だけど、『アムニージアック』はいろんな曲の集まり。だからシングル切るのもOKって感じ」

と答えていて、基本的にはこの曲を聴かせたい、この曲も出来がいい、この曲も……って曲単品にこだわってる節があります。この他に引用がないのは、他にインタビュー記事が手元にないからなんですが、実際『イン・レインボウズ』なんかもセッションから生まれた18曲の内の8曲をボーナスディスクとしてワンパッケージにしちゃってるし、最初はダウンロード販売だったわけで、そこまでアルバム一枚!ってのにこだわってないんじゃないでしょうか。

本人たちや熱狂的なファンにとっては不本意だったかもしれませんが、ぼく個人的な意見としてはレディオヘッドの曲がバラバラに収録されたからといってその魅力が落ちるとは思いません。むしろこのベスト盤は入門編としてはとてもいいと思うし、特にレディオヘッドを知らないという人にかなりおすすめできます。外部の人が客観的に曲を選んだことで、逆に良かったと思うんですよ。実際思い入れある人とかが選んだらまともな選曲にならないでしょうし、オアシスのベストとかもノエルが選曲したりすると、『ビィ・ヒア・ナウ』から一曲も選ばれなかったりと非常に片寄ったモノになったりするし――――しかも年代別に並んでるわけでもないので、レディオヘッドの好きな曲をプレイリストに入れてシャッフルしたらこうやってしまったみたいに思えばいいんじゃないかと。

というわけで、「レディオヘッドかぁ、いっつもアルバム一枚聴けないんだよなぁ重くて……」という方は是非手に取ってみてはいかがでしょうか。ちなみに二枚組のバージョンと一枚だけで出てるバージョンがあるんですが、断然二枚組がおすすめ。一枚組だと上記の「あれもこれも入ってないじゃないかぁ!」となってしまいます。あういぇ。

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記事内インタビュー引用:ロッキング・オン、2000年10月号、2001年6月号、2007年11月号。

*1:『キッドA』までは好きで、あとは良い悪い以前に理解出来ないという