発想はぶっ飛んでて展開も読めないのに至って普通 『TIME/タイム』

TIME/タイム』をレンタルBDにて鑑賞。

こう寒くなると出かけるのがつい億劫になってしまい、わりと毎年この時期(明けてから2月くらいにかけてくらいまで)は今年見逃した映画をレンタルしてきて、家でごゆるりと観るというのが定番になっている。

基本的には評判が良い映画を中心に借りてくるわけだけれども、ビールを飲みながら頭からっぽにして映画を観たいと思うときもあって、その枠として今作を借りてきた。ぼくの中ではこれと『リミットレス』が同じ扱いであり、そっちの方も近いうちにビール飲みながらでも観たいと思っている。

さて『TIME/タイム』であるが、映画好きの方々の間ではまぁとてつもなく評判が悪く、今年のワーストなんて人も多かったみたいだが、そんなにいうほど悪い映画ではなかった。

まずこの作品。ディテールは置いといても物語の根幹を成す部分はしっかりと骨組みされている。

のっけから寿命がお金の代わりになっているという、まさにタイム・イズ・マネーな世界観が提示され、スラムで生きてる貧困層はその日に生きていられるかも分からないような状態。日に日に値上がりする「時間」のせいでバスに乗ることも出来ず、片道一時間半のバス代が出せなかったせいで、主人公の母親は寿命が切れて亡くなってしまう。一方、富裕層に住む人々は文字通り時間に追われない優雅な暮らしで、つねにボディガードをつけて歩き、何をするにもゆったり。その富裕層からある男がスラムにやってきて、わざと目立つような金……時間の使い方をする。そんな時間の使い方をしていたらギャングに狙われるぞと主人公が警告するも、その瞬間にギャングがやってきて、その男は命を狙われるが、主人公がその男を救うことから物語は急展開する。

もし、スラムでもがくように暮らしてた男が一夜にして大金を手にしたらどうするだろう?ということや、富裕層しか住まない都市の描写、そこにやってきた主人公の行動など、とにかく展開がコロコロと変わり、一瞬たりとも飽きさせない。ここからはネタバレもあるので、映画に例えるが、内容としては『バリーリンドン』→『逃亡者』→『俺たちに明日はない』→『マトリックス』みたいな、それ成立するのか?というトンデモない方向に話が転がっていく。

これだけ聞くとおもしろそうな映画だと思うかもしれないが、しかし、この作品。悪くはないのだけれど、ずば抜けて良くもない、最終的にものすんごく普通の映画を観たくらいの満足感になる。

理由としてはまずビジュアルの貧困さがあげられる。

ヘタしたら地球ではない何処かが舞台かもしれないが、まぁ絵空事とはこのことでまったくビジュアルに説得力がない。つねに命を狙われ、いろんなところで人がバタバタ死に、さらにいつ死ぬかも分からない人たちが住む場所=スラムの描写が特にヒドく、スラム感が一切ない。それはスラムに限ったことではなく金持ちが住む場所もそうなのだが、これであれば制作費がこの作品よりも遥かに低いであろう『ランド・オブ・ザ・デッド』のほうがうまいこと描いていた。もしかしたら明日死んでしまうかもしれない切迫感や富裕層への憧れみたいなものもうまく映像で表現しており、そういったものがこの『TIME/タイム』からは感じられない。

アクションシーンに至ってもそうで、こう今ひとつ迫力にかけるし、奇を衒ったようなインパクトある描写――――例えば空間が歪むほどのモーション感覚みたいなものもなく、だからといって泥臭い骨太な演出もなく、全体的にのっぺりとしている。ラブシーンひとつとってもそうで、時間がなくて、明日死ぬかもしれないわりに、なんか妙にベタベタとしており、それも『ターミネーター』であったような互いをガンガン求めあうようなことはなくホントにガッカリした。というかリアリティがまるでない。

あと先ほど「ディテールは置いといても」と前フリをしたが、そのディテールの甘さがかなり目立つ。

そういう世界になることはないとは分かっていても、細かい部分はどうでもいいや感が全編に溢れてる気がしてならない。そこを説得力あるビジュアルでねじ伏せればそういう部分も打ち消すことが出来るだろうが、その肝心な部分がヌルいので、こういう部分にまでいちいちつっかかってしまう。もう全部言い出したらキリがないので、観た人にあーだこーだ考えていただきたい。

とは言いながらも、主役二人はすこぶる魅力的だし、キリアン・マーフィーはハマり役か!?と思うほど好演しているし、なんだかんだで最後まで飽きずに観れたので、ヒマつぶしにはおすすめなポップコーンムービーであるとは断言できる。SF的なガジェットを期待すると肩すかしを喰らうが、ヘンチクリンな展開がおもしろいので興味があるなら是非に。まぁ、映画ってのはどこか普通とは違う何かが過剰にないとあまり印象に残らないってことなんでしょうな。セックスシーンがすごいだとか、血が噴水のごとく飛び出るとか。

ちなみに吹替で観たのだけれど、前評判通り、麻里子さまは最悪だった。まぁ富裕層にいれば一生死なずに暮らせるってことで、そのため生気を失っており、それでロボットみたいになってるからあの演技とあってたかも………というのは精一杯のフォローである。それでもゴーリキーより遥かにマシ。

NHKDVD 麻里子さまのおりこうさま!

NHKDVD 麻里子さまのおりこうさま!