『トイレット』鑑賞。『かもめ食堂』『めがね』でスローライフ系の市場を切り開いた荻上直子監督最新作。
母を亡くした三兄妹のところに日本語しか話せない“ばーちゃん”がやってくる。三兄妹はプラモオタクに引きこもりとそれぞれに問題を抱えているが、“ばーちゃん”がやってきたことで何かが変わり始める――――監督が北米に留学した際、日本語しか話せなかった祖母を“ばーちゃん”と呼んでた友人のエピソードを元に映画化。
『かもめ食堂』『めがね』の監督さんということで、例によって説明が無く、何の変哲もない日常を切り取った作品だが、バケーションしてます感丸出しだった前二作に比べると、今作では一つの家族の絆にフォーカスを当てることで、生活の臭いを映画に取り込み、あまり浮世離れさせずにキャラクターを深く掘り下げることに成功している。着かず離れずの絶妙な関係性という意味では『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を彷彿とさせるが、「新世界」にやって来た少女の視点ではなく、『トイレット』ではあくまでストレンジャーが家にやってきた!という視点で描き出されて行く。
全編英語の作品だが、それでもしっかり日本映画のルックになってるのはひとえに「もたいまさこ力」なるものが映画全体を支配し、そろそろと歩くだけでも異様なオーラを放っているからだと思う。
無名の俳優が出演しているが、これがどれも素晴らしい表情の役者さんたちばかりで、久しぶりに役者の力で映画を魅せるという作品を観た気がした。
それにしても、今作でのミニマリズムはすごい。昨今の雄弁な日本映画とは対極と言ってもいい。
しかしである。本当に些細なシーンが後の小さい伏線になっていたりと、繊細な演出が随所に光っており、唐突な場面転換も相まって、絶妙なクスリとした笑いと、ホロリとした感動を生むのはさすがとしか言いようがない。今まで以上にミニマリズムであるが、実のところ今まで以上にエモーショナルな映画でもある。
『めがね』ではビールを飲みながらロブスターをむさぼり喰らうという映画史に残る名シーンがあったが、今作ではそれが餃子になっており、幾分抑えめに描いてはいるが、この作品を観たあとでは餃子を喰らいたくなること必至。
正直、個性的だった『めがね』に比べると、今作は「カメラがあまり動かないジャームッシュ」といった具合なので、そこまで強くは勧めないが、荻上直子とはどういう監督なのだろう?というのを知るには持ってこいだと思う。そしてこれがツボに入ったら『めがね』を強くおすすめしたい。あういぇ。
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