はきだめの男女『愛の渦』

『愛の渦』をAmazonプライムにて鑑賞。
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今作は乱交場を提供する風俗店に集まってきた強力な性欲を持つ男女8人の物語。とはいえ、それぞれのバックグラウンドが語られることなく、ひとつの部屋のなかという限定された空間だけで映画は進む。元は舞台劇だったらしく、その演出家でもあった三浦大輔が監督した。

いきなりだが、かなりおもしろかった。セックスを主題にした映画で一番笑ったかもしれない。ラース・フォン・トリアーの『ニンフォマニアック』もそうだったが、そもそも映画において生まじめな顔して性を扱うほどバカバカしいことなんてないと思っている。そのあたりキューブリックはよくわかっていて『ロリータ』も『アイズ・ワイド・シャット』もそのように撮られているし、作った本人はどうかわからないけど『愛のコリーダ』も『ラストタンゴ・イン・パリ』もどこか滑稽な人間たちへのまなざしがカメラの反対側にあった。コーエン兄弟が「神の視点で人間を小バカにしてる」と批判されてるが、あの感じがセクシャルなことを扱った映画には多い気がする。

冒頭、目的がなんなのかわかってるにも関わらず、半裸状態でどうやって本題に入ったらいいかドギマギしながら、あーだこーだとどうでもいい話をぎこちない間とテンポで話し続けるのだが、ここだけでニヤニヤが止まらず、この段階で「バコバコバスツアーみたいなものは所詮ファンタジーにすぎない」という所信表明をする。

徐々に緊張がなくなり、ことに及ぶとここから8人の態度に変化が訪れる。人間、ひとつの欲を満たしたところで満足いくわけもなく、その上の欲に駆られ、金を払ってるという大義名分から徐々に本性が明らかになっていくというのがある種のクライマックスなのだが、この段階でセックスシーン目当てで観に来た客に冷や水をぶっかけてくるわけである。というかそれ目当てで観ると結構喰らう可能性すらある。

物語自体を乱暴に要約すると「素性も知らない人たちがひとつの目的のために狭い空間に集まり、その目的を達成したあとで罵りあう」ということになるが、これはタランティーノの『レザボア・ドッグス』であり、それから内通者と死人を取っ払った作品だと言い切っていいかもしれない。

出てる役者たち全員拍手を送りたいくらいの名演技連発で、デブの童貞や普通のおっさん、ちょっとやんちゃなダメ男、そこそこのルックス、かわいくてナイスバディ、常連のアラフォーとそれぞれわかりやすいポジションを担わされてることにもご同情申し上げますといった感じだが、ちゃんと監督の意図を汲み取って演じているのがよくわかる。

もはや日本で一番セックス演技がうまい池松壮亮はさすがといった具合だが、この作品でブレイクした門脇麦の地味な女子大生の演技があからさますぎて惜しい。まぁ、そこからの激しすぎるセックスシーンとの緩急を付けるためだったのかもしれないが(とはいえ、カットが変わった瞬間に誰よりも声をだして喘ぎながら騎乗位するシーンで爆笑してしまったのだけれど)。

一応、最後の最後で気持ち良いくらいのオチが待っているのだが、ここでさらに観客に冷水をぶっかけてくるのもおもしろい。あれだけ本音だけじゃなく、身体をすべてさらしだしたとしても所詮、人間は他者とわかりあえない生き物なのである。

愛の渦 [Blu-ray]

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黒沢清の真骨頂『クリーピー 偽りの隣人』

クリーピー 偽りの隣人』をAmazonプライムにて鑑賞。しかし、映画のタイトルバックでは『クリーピー』表記なのに、なぜ公開されると山崎貴の映画のようなわけわからんサブタイトルがついているのか?まったく必要ない。
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『CURE』からはじまり『回路』や『トウキョウソナタ』など、黒沢清は「例え家族だとしても人間は他者と決して繋がり合うことができず、それでいて孤独を恐れる生き物である」ということを繰り返し描いてきたが、今作『クリーピー』ではそのテーマの集大成ともいえる内容であり、そのものずばり家族と他者について“疑似家族”というガジェットをつかい紡いでいく。

冒頭から「この男、ノリノリである」といった具合で景気よく人がどんどこ死んでいき、中盤はそれをあえて見せないというシーンを作ることで恐怖を煽っていく。『CURE』以来のサイコホラーなのにもかかわらず、そのスケールは半径数メートルの間でおさまり、終末感はまるでなく、むしろ閉塞感と共に、とてもミニマムな仕上がり。

その恐怖を一手に担ったのが香川照之。『贖罪』もすばらしかったが、少々やりすぎるくらいのサイコパス演技が絶品であり、噛み合わない会話とみょうちくりんな敬語のコンボで「明らかにこいつおかしい……」と観る人全員に思わせることに成功。逆に『ニンゲン合格』以来、黒沢とタッグを組む西島秀俊は抑えに抑えた朴訥な演技で香川を迎え撃つ。徐々に精神が崩壊していく妻というのも『CURE』で登場させているが、今作ではその役を竹内結子が好演。「え?なんで急にそんなこと言い出すの?」と思ったところが前フリで、後半にそれが活きてくるという仕組みだ。

あえてだろうが、すべてを描かないため、一部キャラクターの考えてることや行動原理に納得がいかなかったりする部分もまぁあるし、ちょっといくらなんでも偶然がすぎやしないかと思わなくもない。もっといえばモデルにした「北九州監禁殺人事件」を映画がこえてくれないというのは致命的ともいえるが、その不確定な部分も含めて、楽しめること請け合いの作品。オレは『CURE』以来これを待っていた!と声を大にして言いたい傑作。

コントロール不能の気持ち『ディストラクション・ベイビーズ』

ディストラクション・ベイビーズ』をAmazonプライムにて鑑賞。
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そのタイトルの語感でいやがおうでも『コインロッカー・ベイビーズ』を思い出すだろうが、NUMBER GIRLの「DESTRUCTION BABY」からの引用であり、そのフロントマンであった向井秀徳が音楽を担当したのも必然といえる。内容的には『コインロッカー〜』のフォロワーである『ザ・ワールド・イズ・マイン』のヒグマドンが出ない版でケンカに明け暮れる男とそれに感化された高校生と彼らに拉致されてその暴力性に目覚めるキャバ嬢の破滅への旅を描く。

「清々しい程 破壊された君の心ん中 そのあと誰が入り込んだ?誰が住んでるの?DESTRUCTION BABY コントロール不能の気持ち(一部略)」と向井秀徳が歌ったように、主人公はこの世のすべてを拳ひとつで破壊して回りたい衝動に駆られ、無差別に暴力を振るう。やや中二病がかった設定ながら、ぼくがもしこの映画に十代で出会っていたら間違いなく感化されてただろうし、ある世代にとっては『タクシードライバー』や『ファイト・クラブ』のような衝撃を受けてもおかしくないと思う。

監督は商業映画初監督となる真利子哲也。インディーズ映画出身らしい破壊衝動とメジャー感のバランスが良く、黒沢清が絶賛するのも納得のロングショット+長回しによるケンカシーンは『その男、凶暴につき』以来の衝撃で、ただのケンカを遠くから見物しているような気にさせられてゾクゾクしたし、やたらと新鮮だった。

そのケンカに明け暮れる怪物を身体ひとつだけで体現した柳楽優弥がとにかく素晴らしく。これにケチ付ける人はいないだろうし、もっといえば同業者は全員嫉妬すること必至。その柳楽に負けじと菅田将暉小松菜奈といった若手トップクラスの人気者たちも「これに出ていいのか?」というくらいの役回りで体当たりの演技を披露。この三人をキャスティングした時点で勝利は見えていたといってもいいだろう。

ハッキリいって観る人を選ぶが、肌にあわなかったとしても何かしらの記憶にはしっかり刻み込まれる作品であることは間違いない。多分しばらくしてからまた観ることになるとは思う。書いてからわかったことだが、後に真利子哲也は影響を受けたであろう新井英樹の『宮本から君へ』のドラマ版を監督していて、ちゃんと主題歌はエレファントカシマシというこだわり(『宮本から君へ』の宮本はエレファントカシマシ宮本浩次から取っている)。こちらもAmazonプライムにあがっているので観るのが楽しみだ。

暴力の是非を問わない“わらの犬”『アイアムアヒーロー』

Amazonプライムにて『アイアムアヒーロー』鑑賞。
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「あの『アイアムアヒーロー』を佐藤信介監督と、大泉洋で映画化だと!?『GANTZ』はヘッポコだったし、大泉に至っては主人公に似ても似つかないじゃないか!!!」という下馬評を大きく覆し、映画秘宝の年間ベストでは『シン・ゴジラ』と『この世界の片隅に』に次ぐ4位になったが(5位は黒沢清の『クリーピー 偽りの隣人』でこれまた邦画)、それも観て納得した。

脚本はこの後『逃げ恥』で大ブレイクすることになる野木亜紀子。原作はゾンビ・パンデミックがフランスにまで蔓延してしまったというところまで書かれているが、当然そんなものは映像化不可能なのでカット。『ドーン・オブ・ザ・デッド』を彷彿とさせるパニック描写からの怒涛のカーチェイスを見せたあと、じっくりロードムービー化しながらあてもなく女子高生と逃げ続けるという部分も短縮、なので早々にショッピングモールに辿りついたと思えば、すぐにゾンビよりも人間の方が愚かで怖いという『死霊のえじき』よろしくのシーンになだれこみ、すぐにクライマックスとなる。

こう聞くと「はいはい、原作のダイジェスト版で原作読んだ方がいいっていうオチね」と思うだろうが、この脚色が実は大当たり。

そうしたことで映画では何が起こったかというと「なかなか暴力を振るえないヒョロヒョロの情けない男が、目の前でどんどん人が死んでいく様が怖くて逃げだすも、逃げだした先でこれ以上ないくらい追いつめられた結果、ある人を守るために襲いかかってくる者を皆殺しにする」という『わらの犬』的な展開の映画に様変わり。

しかも襲ってくるのが人間じゃなくゾンビなので、暴力の是非みたいなものは問わず、むしろ誰かを守るための“ヒーロー”として立ち上がるという、タイトル通りのテーマに行き着く。この部分は原作でも描かれていたが、その一点に絞ったことでそれがより明確になったといえる。

その“タメ”によって放たれるクライマックスは猟銃で人体が吹き飛ばされる様だけを延々描き続ける一大グランギニョール。まぁこの辺はいろんな人が感想を述べているのでこれ以上は言うまい。

大泉洋はやや演技にやりすぎなきらいはあるものの、他に鈴木英雄を演じられる人が見つからないかもしれないレヴェルの化けっぷり。原作から抜け出してきたような有村架純の使い方はもったいなかったような気もするが、彼女が活躍するとクライマックスの見せ方がブレるだろうから正解っちゃ正解なのかも。

2016年といえば『シン・ゴジラ』と『この世界の片隅に』と『君の名は。』の年だったが、そこに隠れて思わぬ伏兵が潜んでたという感じ。もう一度観るか?と言われたら恐らく中盤のアクションとクライマックスだけ見返すんだろうが、それでもおもしろかった。傑作というよりは力作という部類かもしれない。おすすめ。

荻野由佳センターだからこそ成立する人類愛/NGT48『世界の人へ』

結構前の話になるが、NGT48『世界の人へ』のタイプA、B、Cを購入した。酩酊状態でスマホから注文したのもあってか、タイプCだけが2枚届くというアクシデントがあった。みなさまも注意されたし。ちなみにそのもう一枚のタイプCはNGTファンである主任の奥さんにプレゼントした。
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今回は「共に歌おう」という歌詞が象徴するようにファンが曲と一体になることを暗に要求してくるようなアレンジ。簡単にいうと意図的にMIXが打てないような作りになってる。コールドプレイの『Viva La Vida』丸パクリのイントロとほぼ同時に「オーイェイエー」というシンガロングがはじまってしまうし、四つ打ちリズムをハンドクラップに変えたことで、出だしから「手拍子をしながらみんな歌う」という曲のルールが自然と認識される仕組み。間奏は仕方ないとして(それでもバックではハンドクラップが鳴り続ける)、アウトロはなく、全員のアカペラによるカットアウトと徹底している。


Coldplay - Viva La Vida
コールドプレイの『Viva La Vida』イントロとかそのまんまである

そんなスケール感のあるアレンジに引っ張られたのか、歌詞のテーマも壮大でずばり「人類愛」を歌う。それこそかつてビートルズが『愛こそはすべて』を歌ったような絵空事とも思えるストレートな物言いだ。119カ国への配信というのも衛星を使って24カ国で同時に放送したビートルズのそれを彷彿とさせる。

深読みになるが『青春時計』は「輝きながら過ぎてく日々 いつかこの日を思うのだろうか?」と歌ってるように「アイドルとは青春を謳歌する時期をまるまる犠牲にしなければならない」という裏テーマがあったような気がするし『世界はどこまで青空なのか?』は「アイドルになることへの先行き不安感」と「それでもアイドルになる決意」をMVとワンセットでファンに提示した。『春はどこから来るのか?』は『青春時計』の主人公が成長したような内容になってて、淡い恋心を歌いながらも「自分から動き出さなければ何もはじまらない」という前作に対するアンサーみたいなフレーズも飛び出していた。

そのアイドルの是非から急な方向転換である。聴いててちょっと気恥ずかしくなるが、これは「本気で願えば夢は叶うよ」といったキレイごとを荻野由佳がアイドルとしてまんま体現してしまったことで成立しているのではないかと思う。つまりこの曲の世界観は彼女なしではありえない、彼女がセンターであることを当て書きしたかのようでもあるし、実際MVもその荻野由佳が明言してきたことをそのまんまなぞってるようなストーリーになっている。だからといって彼女のソロ曲なのか?といわれても違い、「荻野由佳がセンターのNGT48」であることが重要で、だからこそ、曲のアレンジは選抜メンバーによるシンガロングとハンドクラップが使われているのだ。

ぶっちゃけ、ここまでセンターのポジションと選抜メンバー、そして歌詞の世界感が完璧に機能している48Gの楽曲を他に知らない。今回たまたまウラジオストクにNGTのファンがいるということが分かって、そのことでMVも方向性も変わったが、もしかしたら世界配信といい、フェスへの出演といい、NGT48は他の48Gとは一線を画す存在になっていくのかもしれない………というのはさすがに贔屓目がすぎるか。

世界の人へ(Type-A)(DVD付)(特典なし)

世界の人へ(Type-A)(DVD付)(特典なし)

ちなみに今作はカップリングがすべて完璧で特典のショートムービーは同じ日の出来事が違う視点で何度も描かれるという『桐島、部活辞めるってよ』的な構成がおもしろかった。1枚は買って損ないかも。