くりごはんが嫌いな男が選ぶホラー映画ベストテン

年末恒例??のワッシュさんの映画ベスト企画。今年はホラー映画のベストテンということで、当然ながら参加させていただきたいと思います。

ホラー映画ベストテン - 男の魂に火をつけろ!

1.回路 (2001年 黒沢清監督)
2.叫 (2007年 黒沢清監督)
3.東海道四谷怪談 (1959年 中川伸夫監督)
4.オーディション (1999年 三池崇史監督)
5.この子の七つのお祝いに (1982年 増村保造監督)
6.エル (1953年 ルイス・ブニュエル監督)
7.遊星からの物体X (1982年 ジョン・カーペンター監督)
8.マタンゴ (1963年 本多猪四郎円谷英二監督)
9.レクイエム・フォー・ドリーム (2000年 ダーレン・アロノフスキー監督)
10.回転 (1961年 ジャック・クレイトン監督)


実はホラー映画を熱心に見始めたのは最近ということもあって、いわゆるホラー映画“新規”になるんですが、意外にあっさりと10本決まってしまいました。日本映画が多めになったのも驚きましたねぇ。やっぱり西洋よりも日本の方が怖いと感じるんでしょうか。

基本的にものすごく怖かった映画。シーン、シーンで底冷えするような恐怖を味わった映画を中心に、子供の頃に観てガツーンと喰らったような作品を選んだので、わりと最近の映画が多めになってますね。もっと教科書的な作品がつらつら並ぶかなぁと思ったんですが……いや、いろいろ入れたいのもありましてですね……うーむ……


『回路』は当時付き合ってた彼女がホラー映画大好きで、一緒に観ようよと言われて観たんですが、いわゆるこれをきっかけにホラー映画っておもしろいんだ!と開眼した作品でやはり一位にしなければなりません。幽霊ってなんで怖いのか?そもそも幽霊って概念/存在は何なのか?それにたいする回答と同時に、世界が終わっていく様子を丁寧になぞっていて、見終わる頃には怖さとかそういうものを越えた不思議な気持ちにさせられる究極の一品。ゼロ年代のベストにも選びましたが、やはりホラーではこれを越えられないと思ってる自分がいます。

『叫』は同じ黒沢清作品ながら、『回路』で提示した幽霊の概念や存在をもっと分かりやすい形で提示していて、なおかつ怖いから。「うらめしやー」をものすごく分析して、論理的に再構築した感じ。

東海道四谷怪談』は美しいんだけど、怖さも十二分にあって、まだ一回しか観てない。それくらい怖い。手元にDVDあるけど、なかなかもう一度観ようという気がおきないくらい怖い。ホントに怖い。

『オーディション』は世界的にも評価が高いジャパニーズホラーだが、やはり入れないわけにはいかない。しかもマジメなドラマだけにその落差がすごく、ホントに怖いと思った。クライマックスもそうだが、特に大杉蓮のくだりとか。

『この子の七つのお祝いに』は子供の頃に事故的にテレビで出会ってしまった映画でトラウマ。ぶっちゃけ内容覚えてないんだけど、すんごく怖かった覚えがある。観るのやめればいいんだけど、それでもやめられなかったというのがホラー映画の魅力なのか??

『エル』は宇多丸師匠が「恐ろしいコメディ」と評していたけど、いやいや、これはコメディじゃないよー。ホントに怖い映画だよー。特にラストで底冷えするような恐怖を味わった。

遊星からの物体X』は腰抜かすほどビックリする個所が2つほどあって、それを人に言わずにすすめるのが好き。もちろん映画は超大傑作じゃ!

マタンゴ』は怖いというよりも作品としてすごく好き。いや『ガス人間第一号』とか『美女と液体人間』とかも入れたいんだけど、その並びでいったら一番怖さに特化したような作品でもある。

レクイエム・フォー・ドリーム』は厳密にいうとホラー映画ではないのかもしれないけど、ホントに怖いと思った。多分この中で恐怖を感じるとしたら、だんとつでこの作品がいちばん怖い。

『回転』は1961年の作品で、某ヒット作の元ネタの一本として有名。AmazonでDVDが15000円もするのだが、非常に美しく、非常に怖いホラー映画の名作中の名作。まぁいれるのも野暮かなとは思ったが、おもしろい作品なので。

というわけで、なんかへなちょこな10本になってしまった気がするし、きっと他の人のを見て「あ!あれ入れ忘れた!」「うわ!そんなのがあった!」なんてことに絶対なるんだろうけど、まぁ、それもふくめてのベスト映画選びなので、他の人のみなさまのも楽しみにしております。多分好きなホラー映画で選んだら、それこそ『エクソシスト』とか『悪魔のいけにえ』とか『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とか入るはずなんですがね……あと『シャイニング』とか。

くりごはんが嫌いな男の2011年ベスト&ワーストムービー


さて今年もやって参りましたベストムービー発表の季節です。

今年は映画というよりも、音楽とテレビ漬けになってた一年だったといえます。故に他の映画ブロガーさんよりも圧倒的に観てる本数は少ないです。その中でも繰り返し観たいとか、実際繰り返し観たものを中心に選びました。どうせ年末は書き入れ時で忙しいし、去年もこれくらいに発表したので、今年も同じ時期に発表しちゃいます。なのであんまり参考にならないはずです。『スーパー!』や『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』や『ドリームホーム』などの話題作も観れてないし……

「今年公開された映画」で観たのは後追いも含めて73本で、あまり観てないなぁと言っておきながらも去年より多かったです。


それではベストムービー2011の発表でございます!!


1.イップ・マン 葉問(序章でも可)
2.スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団
3.MAD探偵 7人の容疑者
4.SUPER8/スーパー8
5.ランゴ
6.探偵はBARにいる
7.悪魔を見た
8.ソーシャル・ネットワーク
9.ピラニア3D
10.キラー・インサイド・ミー


軽くコメントなどを。

ハッキリ言って2011年はドニー・イエンの年だったといっても過言ではなく、『孫文の義士団』や『精武風雲』などの傑作もあったが、やはりここは特出した1.を。特に『葉問』を観ることで『序章』の評価も格段にあがるという、互いが互いを補填し合う奇跡のような二作。普通の人よりカンフー映画を観ていると自負しているが、その中でもトップクラスだった。輸入BDやレンタルDVDを駆使して両方とも10回近くは観ている。とにかく文句なしにおもしろかった、それしか言葉がでない。『葉問』を一位としたが当然『序章』も同率の一位。二本で一本という印象なので一作とした。というか、他にも外せない作品が……

2.も1.と同じく輸入BDとレンタルで5回くらい繰り返し観ている作品。サントラも買ってしまった。このランキングの中ではいわゆるひとつの「オレの映画」扱い。「ゲームっぽい」と揶揄されてしまいがちな演出において、ゲームっぽいことを過度に再現するとどうなるのか?という実験的な要素もある。ジャパニーズサブカル文化へのオマージュがてんこもりで『キル・ビル』を観た時の感動が否が応でも蘇り、さらに主人公の葛藤や成長/戦いをゲームのバトルとして表現していて、それにエクストリーム感があまりないのもよかった。いまんとこエドガー・ライトの作品にハズレなし。

去年、一昨年とジョニー・トー作品がベストワンで、今年は3.が公開されたが惜しくも三連覇はならず。とは言っても、こちらもすさまじい映画で、UK盤のBDを買ったほど。ゴッホが刑事だったらどうやって捜査するか?というのを元に北野武イズムを注入。MADの名にふさわしい狂いに狂ったシークエンスが連発されるもクライマックスの美しさは『冷たい雨に撃て〜』の竹林での銃撃シーンに匹敵する。その対比ったら……

4.は2.や5.と同じくサンプリングムービーとしての評価。スピルバーグ愛と映画的記憶のごった煮。特に音楽の使い方がよく、見終わった後に楽曲を集めて、iTunes上でコンピ盤を作ってしまったくらい。『キックアス』も『エンジェル・ウォーズ』もそうだが、基本的に既存の音楽をここぞという場面で使われるとその映画のことを好きになる傾向がある。この映画もそうで、オープニングとエンディングにやられた。

『荒野のストレンジャー』や『ケーブルホーグのバラード』をベスト作としているぼくが5.を嫌いになるはずない。これをあの海賊映画の監督が撮ったことにも感動。こちらも監督にとっての『キル・ビル』かと。水や砂などの写実感と箱庭感が特出していたように思う。映像だけだったら『タンタンの冒険』よりも好きだ。

去年は『ゴールデンスランバー』を10位にし、今の日本のスケールでやるにはちょうどいい娯楽作と評したのだが、それは6.のためにあるような言葉だった。古き良きプログラムピクチャーのテイストに大泉洋がピッタリとハマる。ハードボイルドの教科書があったとすれば、それを丁寧に書き写してるようでそこに感動した。邦画はこういうタイプのものだけ作り続けてればいいのだ。

7.は思わぬ伏兵が潜んでいたという感じ。始まってから終わりまでテンションが高く「このテンションがまさか二時間以上も続くわけないよな」と思っていたら、ホントに終わりまで突っ走っていてぶったまげた。ところが映画はつねに復讐と拷問を繰り返すだけのシンプルさ。その描写も観客を突き放すくらい強烈。今年も韓国映画はイキが良い。

8.はデイヴィッド・フィンチャー渾身の一作。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のような新しいクラシックで、それは『市民ケーン』を下敷きにしたから。これ!という奇を衒ったカメラワークに頼らなかったのもよかった。

9.も今年10回近く観た。映画にこれ以上何を求めるという潔さ。酒飲みながら野郎同士で観ると盛り上がること必至のパーティームービー。これからも何度も何度も観るだろう。

10.は『内なる殺人者』の完璧な映像作品。まさかここまで忠実に再現しているとは思わなかった。英国産テキサス風味の極上バイオレンスなので、そこまで脂っこくなく、それでいて緩い時間がいやーなまとわりつきかたで流れていく。去年の内に観たが、その時も10本の内の6位くらいかなと言ってたくらい好きな作品。原作にある禅問答のようなひとりごとを全部カットしたのも正解。マイケル・ウィンター・ボトムはホントに偉大な監督だ。



キック・アス』と『ソウルパワー』は今年新潟で公開された作品でどちらも大傑作ながら、正確には去年の映画なのでとりあえず除外。

ベストにはしなかったが、それでもおもしろい!と唸った映画は多く。『孫文の義士団』 『精武風雲』 『アンチクライスト』 『アイ・スピッド・オン・ユア・グレイブ』 『レイジング・フェニックス』 『デューデート』 『冷たい熱帯魚』 『イリュージョニスト』 『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』 『ブリッツ』 『ブルーバレンタイン』 『猿の惑星/創世記』 『ゴーストライター』 『タンタンの冒険』 『アザー・ガイズ』 『ムカデ人間』 『スカイライン』 『ツリー・オブ・ライフ』 『マイ・バック・ページ』などがよかった。あと『エンジェル・ウォーズ』は劇場で観た時はそうでもなかったけど後にBDに収録されたエクステンデットカットはすごく良かった。こっちなら好きと素直に言えるなぁ。


2011年ワーストムービー

1.コクリコ坂から
2.もしドラ
3.コリン
4.アジャストメント
5.ツーリスト


1.は敗北としてのカウンターカルチャーを描いてないのがダメ。その象徴ともいえる学生運動に対して「こうあってほしかった」という宮崎駿の思想がアメリカンニューシネマ好きとして許せずワースト。というか、まず演出がヘタクソ。これはオレの意見じゃなく、宮崎駿NHKのドキュメンタリーで言ったことでもある。

2.は元々低くハードルを設定していたが、それよりも遥かに出来が悪くて本当にビックリした。ツイッターのつぶやきから端を発した町山智浩氏の『もしドラ評論』はすごく気を使っていたんだなというのがよく分かるくらい本当にダメなところだらけの映画。出来が悪いという意味ではダントツのワースト1。

3.はうまいし、かなりいい線いってるとは思うけど退屈だった。長い。もし彼に予算を湯水のように与えたらどうなるか?というのは興味深いが……

4.は単純に全然おもしろくない。すごくおもしろそうだっただけにビックリした。暗黒皇帝に東京でお会いした時「実は『アジャストメント』ああいう書き方したんですけど、死ぬほどつまらなかったんですよね」と言ったら「オレもそうだったよ」と言っていた。

5.は4.よりもまだマシかなと思ってこのランク。オチでイスからずり落ちそうになった。


【総評】

今年は世間的に評価が高い映画にたいしてピンと来なかったのが多く。『ブラック・スワン』はオフ会でさんざん意見を交換してなるほどすばらしいなとは思ったんだけど、やっぱり好きかと言われるとちょっと違う気がしていれなかった。実は『レスラー』も同じ意味合いでその年のベストにしていない。高評価である『ミッション:8ミニッツ』や『127時間』も同様で、今年の映画を思い返した時に名前すらあがらなかった。逆に酷評されてるような『SUPER8』 『悪魔を見た』 『ツリー・オブ・ライフ』は驚くほどおもしろかったし感動した。ただ残念なのが、今年のランキングであるはずなのに、遅れて公開された傑作が多かったということ。だから実際2011年製作の映画はかなり少ない。

特にベストテンを選んでみて驚いたのは、映画的な記憶を逆行させる作品が多かったなということだ。リメイク作品はもちろんのこと、ブルース・リースピルバーグ市民ケーン、西部劇、アニメ、プログラムピクチャーなど先人達が切り開いたものへのリスペクトがあり、そこから新しいものを作ろうという意志を感じた作品がとても多かった。特に『キル・ビル』以降の「好きなものを歪な形になるほど詰め込む」という文法にならった作品が多く、これからももっともっと増えるだろうなぁと思った。それによって改めて映画を観ることの喜びや楽しさを教えられたし、映画を初めて観た時の感動が蘇るものばかりで多幸感に溢れた一年だった。


ちなみに空中キャンプ主催の「今年の三本」はまるで違うものを選んでおりますのでお楽しみに。「三本を選んだ理由」というしばりがあるんで、それはそれで考えるのが楽しいんですよ。

というわけで以上2011ベスト&ワーストムービーでした。あういぇ。

発表!くりごはんが嫌いな男のスポーツ映画ベストテン

スポーツ映画ベストテン - 男の魂に火をつけろ!

今年もやって参りました。男の魂に火をつけろプレゼンツ!年末恒例映画ベストテン。

詳しい概要はワッシュさんのブログを読んでいただいて、じぶんの場合スポーツがあまり好きではない*1ということもあって、そういうのが主題の映画をあまり見たがらないという傾向にあります。なので、かなり浅い感じに仕上がってますが、それでも選ばせていただきます。こういうベストとか作るの好きなんだよ!!

1.『シンデレラ・ボーイ』(85年 コーリー・ユエン監督 格闘技)

2.『キングボクサー/大逆転』(73年 チェン・チャン・ホー監督 格闘技)

3.『ドラゴンロード』(82年 ジャッキー・チェン監督 香港式ラグビー&蹴鞠??)

4.『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』(99年 サム・ライミ監督 野球)

5.『ローラーガールズ・ダイアリー』(09年 ドリュー・バリモア監督 ローラーゲーム)

6.『少林サッカー』(01年 チャウ・シンチー監督 サッカー)

7.『レイジング・ブル』(80年 マーティン・スコセッシ監督 ボクシング)

8.『オーバー・ザ・トップ』(87年 メナヘム・ゴーラン監督 腕相撲)

9.『スピードレーサー』(08年 ウォシャウスキー兄弟 レース)

10.『ロンゲスト・ヤード』(74年 ロバート・アルドリッチ監督 フットボール)

軽くコメント。

基本的に格闘技が出て来て、競技が行われているという作品しか思い浮かびませんでしたが*2、その中でも『シンデレラ・ボーイ』は『ベスト・キッド』とまったく同じ内容ながら、ブルース・リーの霊が主人公の元にやって来て、カンフーを教えてくれるというところに夢がある!これだけでオールOKでしょう。あとジャン=クロード・ヴァンダムの初出演作でもあるということで、一定の人種にとってはかなり重要な作品。個人的にはオールタイムベスト。

『ドラゴンロード』はジャッキーのスポーツ映画。延々スポーツするシーンが出て来るのだが、ここが演出なのか、ガチなのか、そのシーンがとてつもない迫力。スポーツそれそのものを描いてるという意味ではこれ以上ないのではないかと。

ラブ・オブ・ザ・ゲーム』はこの手の映画としてはベタベタでスイーツのような終わり方だが、サム・ライミケレン味がスパイスとなり、傑作に昇華した希有な例。ホントに映画って監督次第なんだなと思わせる。

レイジング・ブル』はスポーツ映画、ボクシング映画という枠にくくれないほど深すぎる作品で何度観ても新しい発見がある。映画としても最高峰の作品。

オーバー・ザ・トップ』はスタローンの『ロッキー』再び!な映画。ぼくはこちらを推す。

ローラーガールズ・ダイアリー』や『ロンゲスト・ヤード』あたりは他とかぶりますが、やっぱり名作/傑作ですからねぇ。

他の方のベストも楽しみです。あういぇ。

*1:むしろ嫌い

*2:『片腕カンフー対空飛ぶギロチン』的な

日本映画の中でもトップクラスの傑作『沓掛時次郎 遊侠一匹』

映画を観ていて美しいなぁと思う瞬間が多々ある。

いわゆる、マジックアワー的な美しい映像とは別に、映画全体が美しいと感じる作品が古き良き時代の日本映画には溢れている。

東海道四谷怪談』は究極に怖いのに、映画全体が美しさに溢れ、その怖さですら崇高なものに感じてしまうし、それは『山椒大夫』にしろ、黒澤明の『生きる』にしても同じなのだが、近年、テレビ屋の企画が先行し、日本映画もダメになったと言われる中、この時代の日本映画を改めて観ると、「ああ、日本映画というのはこれだけ素晴らしく、とても美しい映画をたくさん作って来たんだなぁ」と後追いながら思わされてしまうのだ。

そういった日本映画独自の美しさに溢れた作品が多々あるなかで、人間の醜さも含めて「人間って美しいじゃないか」とストーリーから映像から演技から訴えかけてくる作品がある。それが加藤泰監督の『沓掛時次郎 遊侠一匹』だ。

この作品は未来永劫、とてつもない輝きを持って光続ける大傑作で、今観てもまったく古さを感じさせない、むしろ今の時代に観るべき作品であると言い切れるのである。

奥で捉えるローアングルの構図は全カット計算されつくされており、立体的な映像はこちらに飛び出してくるかのよう。特に、カットを割らずに手前と奥でまったく違う動きを演出する殺陣はすさまじく、そのようなオーソン・ウェルズばりの映像遊園地があちらこちらに散らばっており一瞬も目が離せない。映像だけではなく、恋愛映画として素晴しいのはもちろんのこと、義理人情、迫力の殺陣、笑いと涙など映画的興奮が90分の中にこれでもかと詰め込まれていて、娯楽映画としてもパーフェクトである。

渥美清狂言回しに使った前半でテンポを掴み、そのテンポで沓掛時次郎のキャラを一気に説明するというこの冒頭からの流れが素晴らしい。あれだけの膨大なセリフをさらっとしゃべくる渥美清も芸達者だなぁと感じさせるが、沓掛時次郎というのがどういう人間なのか?というのを30分くらいで楽しませながら観客に分からせる。それは当然後半にも活きてくるわけなのだが、その前半から中盤で、観客の期待を良い意味で裏切り、ガラッとテンポとトーンを変えてくるあたりもさすがだ。説明を説明に感じさせず、そのキャラクターも裏切りに使い、映画的なおもしろさに変えるあたりはうまいとしか言いようがない。

そしてなんといっても中村錦之助である。殺した相手の女房に惚れてしまうが、その気持ちを押し殺す演技がとにかく秀逸。表情や声のトーン、口調、すべて完璧で、それまでのプロセスを旅館の女将に話すシーンは涙なくしては見られない。すべてのシーンがエモーショナルなのは、映像の美しさもさることながら、彼の演技が素晴しいというのもあるだろう。決してヒーローではない沓掛時次郎の魅力的なキャラクターによって、この崇高なまでに美しい話をグッと手元に引き寄せる。剣の腕はすごいが、愚痴をこぼし、人間としての弱さも兼ね備えているという異色のヒーロー像を見事に演じ切っているのである。

――――と、まぁ、それ以外ではストーリーに言及しなければならないのだが、残念ながらストーリーについてはあまり語れない。それほどまでに展開もジェットコースターで、ドンデン返し的な仕掛けがあり、グイグイ引き込まれていく。強烈なスプラッター描写に引く人もいるかもしれないが、とにかく観て損なしとしか言いようがない、完璧に構築された映像美に打ち震えろ、必見。あういぇ。

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沓掛時次郎 遊侠一匹 [DVD]

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とりあえずマネしたくなる『ポンヌフの恋人』

超特大ヒットとなり、普段映画を観ない客層も取り込んだ『タイタニック

この映画の中で船の先端に立ちケイトがそのまま手を広げ、その手をデカプーが後ろから握るという超有名なシーンがある。

世界中でマネされたであろうこのシーンだが、実は『タイタニック』の遥か前にそれとまったく同じことをやっていた映画があるのをご存知だろうか。

キャメロンがその映画に影響を受けているかどうかは分からないが、作品自体もビッグバジェットで上流階級の女と普通以下の男の純愛という似通った部分があり、仮にキャメロンが「ああこれマネしたいなぁ」と思って、それを『タイタニック』で再現したとしても不思議ではない。何故かというと、その元ネタとなっているレオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』は全編そのような映画的なエモーショナルに満ちた作品だからで「ああこれマネしたいなぁ!」というシーンが連発されるからだ*1

ポンヌフの恋人』は古い橋の上で暮らすホームレスと失恋と失明の危機から家出したお嬢様の恋物語で、あらすじだけとってみれば古典的であるといえる。チャップリンの『街の灯』にも似ている。

カラックスの演出は『汚れた血』からジャンプアップし、普遍的な物語とも相まって深みを増した。特にアレックス三部作*2としてすれ違いを続けて来た男女の話にある意味で決定的な落とし前を付けたラストも批評家やファンには不評だったようだが、個人的には納得した。

カラックスにとって完璧ともいえるこの作品は難産で生まれたものだった。シナリオは二転三転し、その完璧主義者っぷりに予算も膨れ上がり、公私ともにパートナーであったジュリエット・ビノシュとも破局して、精神的にも参っていたことは想像に難しくない。そんなゴタゴタの中、三年という長期の撮影期間を経て完成したが、作品は大コケ、映画会社がひとつ倒産するまでになってしまい、当然のごとくカラックスはこの後沈黙を余儀なくされた*3

こうやって聞くとただの失敗作だろうが、この作品とにかく全編映像美というか、全カット絵はがきにしてもいいだろうというくらいの完璧な映像設計を持っている。まさに動く美術館であり、この作品に匹敵する美を持つ映画はキューブリックの『バリーリンドン』か、レオーネの『ウエスタン』かというくらいの美しさ。それもそのはずで、カラックスはこの作品で、その先人達がしてきたことと同じような凝り方をした。巨額の予算をつぎ込み、橋をまるまる建設しただけでなく、パリの街並までまるまる作りあげ、自分の思い通りの画を描き切ったのである。

そしてその画をとてつもないエモーションを持ったアクションと組み合わせることで、えも言われぬカタルシスを生むことに成功した。前作『汚れた血』で見せた肉体の躍動はこの作品で鋭さを増し、橋の上から見る花火のシーンや駅のポスターに火をつけるシーンなど、とにかく名シーンと言える映像がひたすら続いて行く。

その結果、あの『タイタニック』にシーンをパクられるまでになったわけだが、どうもぼくは『ポンヌフの恋人』が過小評価されてるような気がしてならない。今更だが、当時ダメだったという人も改めて観直してみてはいかがだろうか。ラブストーリーには1nanoも興味がないぼくだが、とにかくこの作品はその映像美もあいまっておすすめだ。あういぇ。

ポンヌフの恋人 [DVD]

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*1:実際“Les Amants du Pont-Neuf”で画像検索すると映画の画像と並んで、素人がごっこしてる写真も数多く出てくる

*2:ボーイ・ミーツ・ガールと汚れた血ポンヌフの恋人の主人公は全員アレックスという名前で同じ役者が演じている

*3:ビノシュとの破局が尾をひいてるという噂もある