とりあえずマネしたくなる『ポンヌフの恋人』
超特大ヒットとなり、普段映画を観ない客層も取り込んだ『タイタニック』
この映画の中で船の先端に立ちケイトがそのまま手を広げ、その手をデカプーが後ろから握るという超有名なシーンがある。
世界中でマネされたであろうこのシーンだが、実は『タイタニック』の遥か前にそれとまったく同じことをやっていた映画があるのをご存知だろうか。
キャメロンがその映画に影響を受けているかどうかは分からないが、作品自体もビッグバジェットで上流階級の女と普通以下の男の純愛という似通った部分があり、仮にキャメロンが「ああこれマネしたいなぁ」と思って、それを『タイタニック』で再現したとしても不思議ではない。何故かというと、その元ネタとなっているレオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』は全編そのような映画的なエモーショナルに満ちた作品だからで「ああこれマネしたいなぁ!」というシーンが連発されるからだ*1。
『ポンヌフの恋人』は古い橋の上で暮らすホームレスと失恋と失明の危機から家出したお嬢様の恋物語で、あらすじだけとってみれば古典的であるといえる。チャップリンの『街の灯』にも似ている。
カラックスの演出は『汚れた血』からジャンプアップし、普遍的な物語とも相まって深みを増した。特にアレックス三部作*2としてすれ違いを続けて来た男女の話にある意味で決定的な落とし前を付けたラストも批評家やファンには不評だったようだが、個人的には納得した。
カラックスにとって完璧ともいえるこの作品は難産で生まれたものだった。シナリオは二転三転し、その完璧主義者っぷりに予算も膨れ上がり、公私ともにパートナーであったジュリエット・ビノシュとも破局して、精神的にも参っていたことは想像に難しくない。そんなゴタゴタの中、三年という長期の撮影期間を経て完成したが、作品は大コケ、映画会社がひとつ倒産するまでになってしまい、当然のごとくカラックスはこの後沈黙を余儀なくされた*3。
こうやって聞くとただの失敗作だろうが、この作品とにかく全編映像美というか、全カット絵はがきにしてもいいだろうというくらいの完璧な映像設計を持っている。まさに動く美術館であり、この作品に匹敵する美を持つ映画はキューブリックの『バリーリンドン』か、レオーネの『ウエスタン』かというくらいの美しさ。それもそのはずで、カラックスはこの作品で、その先人達がしてきたことと同じような凝り方をした。巨額の予算をつぎ込み、橋をまるまる建設しただけでなく、パリの街並までまるまる作りあげ、自分の思い通りの画を描き切ったのである。
そしてその画をとてつもないエモーションを持ったアクションと組み合わせることで、えも言われぬカタルシスを生むことに成功した。前作『汚れた血』で見せた肉体の躍動はこの作品で鋭さを増し、橋の上から見る花火のシーンや駅のポスターに火をつけるシーンなど、とにかく名シーンと言える映像がひたすら続いて行く。
その結果、あの『タイタニック』にシーンをパクられるまでになったわけだが、どうもぼくは『ポンヌフの恋人』が過小評価されてるような気がしてならない。今更だが、当時ダメだったという人も改めて観直してみてはいかがだろうか。ラブストーリーには1nanoも興味がないぼくだが、とにかくこの作品はその映像美もあいまっておすすめだ。あういぇ。
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