文句なし上半期ベスト1『ホーリー・モーターズ』

ホーリー・モーターズ』をUS盤DVDで鑑賞。

早熟の天才、レオス・カラックスの13年ぶりの新作。各方面で圧倒的な評価を受けているが、ご他聞に漏れず、文句なしの大傑作であった。

奇しくもドニ・ラヴァンが11役演じわけたり、移動にリムジンを使うなど、ウォシャウスキー兄弟の『クラウド・アトラス』やクローネンバーグの『コズモポリス』とかぶるところも若干あるが、出来上がったのはまぎれもない「カラックスの新作」であり、ハッキリ言ってしまうとこの人はデビューしたときからそのスタイルが完成されていたことがわかる。

気狂いピエロ』を使ってフランス映画界そのものをリブートした『汚れた血』、その先に向うためには温故知新が必要だと、『街の灯』や『或る夜の出来事』をベースに作り上げた『ポンヌフの恋人』とテーマはほとんど変わらず。カラックスなりの映画論と映画史の評価を今作でもやってのけるが、もっと観念的であり、抽象的なのが特徴。ジャームッシュの『リミッツ・オブ・コントロール』に近い印象を持った。

汚れた血』同様、他ジャンルの生き直しを徹底的にし、ゴダールが発明した「ミュージカルの再定義(唐突に登場人物が歌いだすことで生まれる緊張感とこれは映画なんだと観客に改めて思わせるメタ視点)」に完璧な画面構築と色彩設計など、カラックスの商標登録が至るところに刻印されていて、アレックス三部作に熱狂したファンにも受け入れられるつくり。

彼なりの『8 1/2』でもあるが、そこに映画を撮ることの苦悩はなく、いわゆる映画的記憶とそれが人生にどのような影響を及ぼすのか?――――はたまた、なぜ俺は映画を撮るのか?映画とは何か?映画とは演じる人を撮ることなのか?では演じるとは何か?という禅問答をひたすらコラージュし続ける。答えは恐らく監督自身の中にしかないが「映画がデジタル化したとしても、役者のモーションからエモーションが生まれるんだ!」など、かなり分かりやすい形でそれらを表現。実際セリフもかなり少ない。

なんと言ってもこの作品の魅力はドニ・ラヴァンその人である。カラックスの相性の良さを改めて思い知らされたし、彼の身体としてのアクションのかっこよさはまったく衰えていない。エヴァ・メンデスはあきらかに浮いていたが、恐らくエージェントに「この監督、ものすんごい有名なんで出ておけば格があがりますよ!」と説得されて出たに違いない。

英語字幕で観たためにドリカム的ブレーキランプのシーンが今ひとつ理解できてないのだが、圧倒的なセリフの少なさでもって観て損はなかった。タランティーノがここ3年以内に観た映画の中でベストと言っているが、ジャンル映画を詩的に再構築し続ける彼にとって、この映画の存在がいかに衝撃的だったか想像に難しくない。CGを使わない彼にとっては同じデジタル否定派としてこの作品が響いたのだろう。

中盤、「Let My Baby Ride」という曲をアコーディオンで演奏し、それを長回しで撮り続けるシーンがあるのだが、映像と音楽と役者の身体の動きがシンクロし、映画ならではの興奮が味わえる。ここは「はなればなれに」のマディソン・ダンスに匹敵する名シーンである。もちろんそれ以外にもエモーショナルなシーンが連発し、人によってはここが好き、あそこが好きとなるだろう。それくらい高水準な画作りがなされた作品。13年ぶりの新作という思い入れ補完も加味してとりあえず上半期ベスト1とさせていただく。

その「Let My Baby Ride」のシーン。そのままショートPVとしてもいけるくらいのかっこよさ。


関連エントリ

http://blog.livedoor.jp/notld_1968/archives/26127807.html


http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/cinema/cnews/20130412-OYT8T00640.htm