石油という名の血は流れない『ノルウェイの森』

ノルウェイの森』鑑賞。

“あの”『ノルウェイの森』の映画化。あらすじなど概要は以前に書いたのでそちらを参照にしていただければなと。

『ノルウェイの森』を10年ぶりに読んだ - くりごはんが嫌い

汚いモノが一切映らない美し過ぎる世界に茶々入れたくなるだろうし、重要なシーンがバサバサと抜け落ちてるせいで原作ファンは到底納得しないだろうし、セリフ回しは無茶苦茶で、冷静に考えると気持ちの悪い世界観である。そもそも映像化不可能って言われ続けて来たけど、それは映像にしたら、劇映画としておもしろくないという意味で不可能だったわけで、その時点である程度の予測はしていたものの、それでも今回の映画版『ノルウェイの森』は合点がいったというか。ああ、この方法ならぜんぜんありじゃんと思ったし、まぁ、総体的には好きな映画だった。

ノルウェイの森』を原作としながらも過去回想をせずにまっすぐ進んでいくためか、映画はビックリするほどトラン・アン・ユンの手中に収まっている。全編これでもか!ってくらいの映像美はさすがで、予告編を見た時に「ウォン・カーウァイみたいな映像でかっこいいじゃん!」と思ったが、スタッフロールを見てたら撮影監督がリー・ピンビンだったというオチ付き。山間の映像から、森の中、草原まで、バシッと美しく切り取ってくれて、なおかつカメラは官能的にグリングリン動く。濡れ場はあまり激しく描かないと公言していたにもかかわらずなかなか艶があってよかったが、この辺も監督と撮影の力が大きいだろう。

役者たちもセリフ回しにはだいぶ苦戦してたようだし、いろいろぶっ叩かれるだろうが、全員悪くなかった。特に松山ケンイチはさすがの一言。TVでセリフを喋ってるシーンを見て、だいじょぶか?と危惧してたが、後半に行くにつれ、彼の一挙一動から目が離せなかった。村上春樹をそのまんまクリエイトしたような演技がずばっとハマって、完璧にワタナベそのものといった具合。これが本当にLやクラウザーさんを演じた人物なのか?と驚かせてくれる。

ただ、そのスタッフ/キャストの個性がぶつかりすぎたきらいがあり、特にレディオヘッドジョニー・グリーンウッドの音楽が無茶苦茶すごい。言ってしまえば『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』そのもので、恐らくそのラインでの起用だったのだろうが、あの音楽にここまでのパワーがあるとは正直思ってもいなかった。いちいち狂気に満ちたホラーな音楽がかかるたびに、石油が噴き出して来るんじゃないか?松ケンが怒り出すんじゃないか?あげくの果てにはボーリングのピンで菊池凛子が……なんて余計な心配までさせる始末。音楽だけでもこのパワーだ、映像、カメラワーク、松ケンの演技と当然一体になることはなかった。

しかし、物語にインパクトがないぶん、この歪さがこの映画の魅力なんじゃないかなぁとも思ったりした。実際映画はカラックス作品よろしく、ボソボソと繊細な喋りをし続け、あっという間にとある人に死が訪れ、去って行ったりと、かなり淡白な作りだったりする。そこにあの狂気のスコア……そのへんをどう捉えるか?というのも評価の別れ目になりそうだ。

というわけで、手放しで絶賛するわけにはいかないが、スタッフの仕事やキャストの演技、狂気に満ちた音楽など、好きと言える部分が特出してた作品だったので、個人的には楽しんだ。ぶっちゃけDVDに特典がたくさん入って、パッケージとかかっこよかったら買ってもいいなぁくらい。トラン・アン・ユンのあの世界が好きな方は是非どうぞ。あういぇ。

ノルウェイの森 オリジナル・サウンドトラック

ノルウェイの森 オリジナル・サウンドトラック

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド