狂気が当たり前という日常『ジョニー・マッド・ドッグ』
『ジョニー・マッド・ドッグ』をやっとDVDで観た。
相次ぐ内戦で混乱するアフリカを舞台に、そこで右往左往する少年兵部隊のリーダー:ジョニー・マッド・ドッグの戦いの日々を描いた作品。
いやすさまじい。噂には聞いていたが、ホントにすさまじく胸に迫る傑作だった。映画である以上、そこに映し出されているのはフィクション以外の何者でもないのだが、『シティ・オブ・ゴッド』や『イン・ディス・ワールド』のように、フィクションを越えた現実との境目みたいなものがうまくフィルムに焼き付けられていたと思う。とにかく圧倒的だった。
物語はほとんど無いに等しく、基本的にはジョニー・マッド・ドッグ率いる少年兵部隊と、内戦の中でたくましく生きる少女を交互に描いていくのだが、内戦まっただ中ながら、少年兵と少女という異なる視点と状況で描かれて行くため、平坦な中にも違う種類の緊張が交互にやってきて、一瞬たりとも目が離せない。
あるアメリカの映画評論家が『ランボー/最後の戦場』のことを「注意:この暴力描写は映画を含みます。ただしそれはごく一部で、全体としては暴力描写のみです」と評したが、『ジョニー・マッド・ドッグ』ほどこの言葉が当てはまる映画もないだろう。とにかくこの作品、徹頭徹尾、虐殺、レイプ、強奪以外のものが映し出されないのだ。少年たちが兵士はおろか、老人や女子供までも容赦なく殺していくだけ。ここで起きてることはぼくたちが普段日常として過ごしている世界とは別の、ホントに映画の中だけで描かれるような戦場なのである。しかもこれが現実に起きていることだというではないか!『フルメタル・ジャケット』よろしく、いきなりスナイパーに狙われるシーンも出て来るのだが、そこで殺された少年兵たちを弔う時も、聞いてて耳を疑うような歌を捧げ、ある種『フルメタル・ジャケット』のラストで唄われる「ミッキー・マウス・マーチ」よりも戦慄を覚える瞬間を捉える。要するに彼らにとってこの狂気こそが日常以外の何者でもなく、この作品はそれを一部切り取ってるだけにすぎないのだ。
戦場カメラマンを撮影監督に起用し、内戦が終わったばかりのアフリカでロケするなど、限りなく本物志向に近づけるための努力がハンパじゃなく、さらに元少年兵たちを起用したことで、その立ち姿や表情などにリアリティ以上の何かが宿っている。製作は『クリムゾン・リバー』のマチュー・カソヴィッツ。監督は少年犯罪のドキュメンタリーを撮り、今作が初長編作品となるジャン=ステファーヌ・ソヴェールだが、彼はこの作品をドキュメンタリータッチではなく、しっかりした劇映画の形に納めた、この辺も評価すべき点だろう。
正直、地獄よりも阿鼻叫喚な現実の狂気が90分詰め込まれているので、観る人を選んでしまうかもしれないが、かなりおすすめ。強奪し、人を殺すことが日常である少年ジョニーが時折見せる優しい表情と涙が唯一の希望だ!あういぇ。
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