まさに意外な映画『アクシデント/意外』

『アクシデント/意外』を鑑賞。ジョニー・トー制作でソイ・チョン監督作。

ピタゴラスイッチ的なしかけで事故に見せかけてターゲットを殺す暗殺者四人組。しかし、おなじような事故でもって仲間のひとりを殺され、あげく空き巣に入られ、これまで暗殺でかせいだ金をすべて盗まれる主人公。不審に思った彼は仲間に疑いの目を向けつつ、あるひとりの男の存在にたどりつき、彼を監視しつづけるが……というのがあらすじ。

「武器をつかわずにターゲットを殺す暗殺者集団の映画を撮りたい」というソイ・チョンの想いから製作がスタート。実際、事故に見せかけて暗殺するというのはどういうことなのか?を徹底的にリサーチし“禁書”と呼ばれるものまで読みあさったらしいが真意は不明。どうやったらガラスが割れて、どうやったらガラスが落ちてくるかなど、それこそ映画のキャラクター同様、本当に事故に見せて殺す手段を現場でもリハーサルを重ねて再現する徹底ぶり。

そのディテールの気の配り方は役者の演出にも及んだ。セリフのすくなさもあいまってか表情だけでいろんな感情を伝えなければならない。監督は役者陣となんども打ち合わせや議論を重ね、平凡ながらも何を考えてるか分からない神秘的な人間像をつくり上げた。ルイス・クーにいたっては毎日飛んでくる指示が変わるため相当とまどったようだが、それにこたえる熱演を披露している。

ジョニー・トーが製作にクレジットされているが、ソイ・チョンの才能を素直にみとめながらも、まかせっきりにせず、現場に顔を出し監督をサポートしつづけた。演出に口出しすることは一切なかったが、ぼそっとひとことヒントのようなものを出し、スタッフに考えさせながら、監督のインスピレーションを引き出しつづけた。ジョニー・トー自身「監督と分かち合えた作品」というだけあり、この場合の「製作」はいわゆるクレジット以上の存在だったことがよくわかる。

さて、この作品。“事故”に見せかけてターゲットを殺すという設定が絶妙であり、これが物語をおおきく動かす軸になっている。香港映画にしてはめずらしく準備期間が長かっただけあり、物語の運びかたはこれまでにないくらいひねていて、まさにタイトル通り「意外」な展開を見せはじめる。

映画は全編淡々としており、上記のようにセリフはかなりすくなく、必要最低限のことしかしゃべっていない。そのたたずまいはまるでブレッソン映画のようでもあるが、グイグイ動き回るカメラはデ・パルマのそれのようでもあり、偏狭的に事件に取り憑かれていく男などヒッチコック映画を思わせるサスペンスがあり、黒沢清のような唐突なバイオレンスがあったりと映画的な引用、温故知新っぷりが独自の美学のなかにすんなりすべり込ませている。

ジョニー・トーが「香港映画は何も考えずに観るものと言われてきたが、この映画はその香港映画の進化を感じることができると思う」というようにまさに新たなステージに立った香港映画界を象徴するような大傑作。もちろん文句なしだが、ひとつだけ苦言を呈するとすれば、なんで主人公の家に空き巣が入ったのか?映画を見終われば分かるが、ミスリードにしてはあまりにもな気が……いや、大傑作なんですよ。ええ。

参考資料:DVD特典メイキング

アクシデント / 意外 [DVD]

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