俳優・鈴木浩介の『レザボア』話がスゴかった件

昨日放送された「movie@home」の最終回がおもしろかった。

BSで映画を紹介する番組ということで映画好きの端くれとして一回観たことがあったのだが、旧作/名作を紹介するという企画はアリとしても、あまりのヌルさにその後はスルーしていた。ところが最終回を迎えるということで、その予告となるCMをたまたま目にし、なんとなく録画して観たのだが、これがトンでもない神回で思わず襟を正した。おそらくぼくが以前観た一回というのはハズレ回だったのかもしれない。いまさらではあるが、この番組が終わってしまうのは非常に惜しい気もする。バラエティをつけても公開される新作の番宣しか見なくなった昨今。よく考えたら旧作/名作についてあらためてテレビをつかってマジメに語るというのは非常に貴重だったのだ。スルーしててごめんなさい。

ぶっちゃけほかの人のはどうでもよかったのだが、その「おもしろかった」部分というのは番組のMCをつとめる俳優・鈴木浩介の『レザボア・ドッグス』話。

彼はこの映画を「演技の神様ばっかりが集まってる映画」「これから俳優になろうと思ってる中学生、高校生たちは見るべき映画」「役者にとっては演技の教科書みたいな感じ」と、俳優という立場から演技メソッドについてシーンを解説し、表情のひとつひとつやしぐさについても言及。さらにキャラクターの襟の形やタイの太さ細さについても分析*1していた。

さらにクリス・ペンの演技をワンショットで捉えるシーンから、役者自身が役について考え、セリフを語るとはどういうことか?その役のバックグラウンドを考えるとは何か?を解説。これがそのまんま「役者は映画で役を演じるときにどういうアプローチで望んでいるのか」という役者論になってて大変勉強になった。

特にティム・ロスの演技についての解説がすごかった。以下、書き起こし。

「撃たれて時間経過がどれくらいなのか?っていうのが、まず撃たれた状態を想像しなきゃいけないし、撃たれてからの身体の状態が時間経過でどのくらい変化していってるのか?っていうのはメイクさんの顔色の変化もあると思うんですけど、まず演技で考えなければいけないと思うんですよ。その時にティム・ロスは最初にテーマを決めたと思うんですよ。本人に聞いたことないんですけど(笑)身体の状態というよりも、ホントに命がなくなっていくときに人間がどういう精神状態になるかっていう、んで、それは子供にかえっていくんじゃないか?っていうテーマを決めたと思うんですね。怖くて甘えちゃって子供にかえっちゃうから急に笑ったりすることもあるだろうし、ところがこの話自体、それそのものが演技だったかもしれないとか、いろんなトリックがお話の伏線になっているので、役者が相当技量を求められてるというか、こいつをダマすためにこれくらいのことはしなきゃいけないんだけど、どこらへんまでやるのかっていうのがね。だからぼくはティム・ロスが演じてる役よりも、その向こうで家で練習してるティム・ロスが見えるんですよね。どこらへんまでやるのかオレは?みたいな。ただ子供にかえるというテーマを決めることでハーベイ・カイテルが親に見えてきたり、恋人に見えてきたり、不思議な関係性がそのなかから生まれてくるというか、役者のアイデアが一個あることで演出も変わってくるんじゃないかみたいな。まったくティム・ロスとはしゃべったことないんですけど(笑)」「ストーリーをちゃんと楽しむという見方も映画を観るうえではしますけど『レザボア』に関してはもうそれぞれの役者の……スティーブ・ブシェミの演技もすばらしいし、もう全員すばらしいですよね。ものすごいレベルの高い役者さんたちが出てるっていう。こんなにワイルドな演技してますけど、間違いなく家に帰ったら全員机に座って一生懸命演技プランを考えてますよ(笑)」

一部中略したが、役者目線の見方とはいえ、タランティーノの演出家としてのすごさまで浮き彫りにするような名解説だといえる。マクガイヤさんやダークディグラーさんも言及していたが、タランティーノ映画で「誰かが何かを演じる」というのは重要なファクターであり、この視点で誰かがこの映画について切り込むべきだったのだ。鈴木浩介恐るべしである。

それにしてもこの番組終わっちゃうのか……

レザボア・ドッグス [Blu-ray]

レザボア・ドッグス [Blu-ray]

*1:あれは俳優の自前だったという説もあるが