これこそがアニメと実写の中間『スキャナー・ダークリー』

スキャナー・ダークリー』鑑賞してたが、感想を書くのを忘れていた。3本で600円のブルーレイレンタルで何気なしに選んだのだが、これが大当たりだった。

新型のドラッグが蔓延した世界でおとり捜査のために売人と共同生活をしていた捜査官が、次第にドラッグに溺れていき、自分と現実世界を見失っていくというのが大まかなあらすじ。

冒頭、頭から虫が湧いてる男が軽快な音楽に合わせて、シャワールームへ向かう。よく映像を見てみると、実写のようだが実写ではない。色もモノの形も人間もどこか歪んでいて、安定しておらず、絶えず視界の中で光や色などが動き続けている。男は虫を洗い流した後に電話をかけ、相談する。その間も虫はどんどん湧いてきて、しまいにゃ、飼ってる犬にも虫がワラワラと沸き出してくる。

うー取れないよー。ごしごし。

これはドラッグの幻覚症状を映像化したものらしいのだが、このオープニングの5分間で一気に魅了された。

スキャナー・ダークリー』はロトスコープという技術を使い、実写で撮影した映像にコンピューターで上から線を書いてそのままアニメにしている。なので、役者の演技もまるまるアニメになってしまうというわけだ。よく「実写とアニメの中間」という言われかたをする映画があるが、これこそが本物の「実写とアニメの中間」であって、故にこの作品は唯一無二。何故なら、今まで実写とアニメの中間を本気で狙った作品はなかったからだ。

情熱大陸に某監督が出演した際、監督自らの手でゴテゴテとキツめの色彩をコンピューターで塗りたぐりながら「アニメと実写の中間を目指している」と語っていたが、その監督の作品を観る限りそれは成功してないように思う。何故かというと、その作品はアクションを知らない人がアクションをCGで作った印象があって、人が飛ぶときも、しゃがんだままピョーン!って飛んだり、走るときも手足をばたつかせて背景が動いてるだけで、実写の時点でも演出が出来てないからである。

そこへ行くと『スキャナー・ダークリー』の映像感覚はすさまじい。アニメなのか、実写なのかという線引きが完全に曖昧だ。しかも実写なのか?アニメなのか?という映像が、じぶんが何者なのか?これは現実なのか?という作品のテーマと完全に結びついている。しかも登場人物のほとんどがヤクで脳をヤラレており、身振り手振りも大げさでリアクションもでかい。このアクションもアニメらしくて楽しい。

この映像世界に取り組んだのはリチャード・リンクレイター。不勉強で観てないのだが、『ウェイキング・ライフ』という作品で試みた映像世界を完璧にモノにしたようである。アニメーターが手書きでアニメを作って行く段階で、色彩や光の当たり具合などでどう作って良いか分からないときはすべてリンクレイターが答えた。つまり監督自身がほとんどのシーンをコントロールし、緻密に手がけていったわけだ。

てなわけで、『スキャナー・ダークリー』は「アニメと実写の中間を目指す」とうそぶくボンボンのクリエーターに見せたいくらいの傑作。プロットにヒネリもオチもあって素晴らしいです。あういぇ。

スキャナー・ダークリー [Blu-ray]

スキャナー・ダークリー [Blu-ray]