ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ

仕事終わりで『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』鑑賞。

予想してた部分と予想を裏切られた部分が同じ割合で、どう評価していいかわからないが、とりあえず、駄作とまではいかない。むしろ観たいと言うならば止めやしないくらいだ。

正直、まったく中身のない映画(むしろそれの方がいいくらい、というか好き)だと思っていたが、意外にも、

カッコ良く死ぬくらいなら、ださくてもダラダラ生きてる方がマシだよというメッセージがあって、主人公の無気力な感じとか、今時の若者っぽさには感心する。個人的にこの主人公は結構私に近い人間だ。まぁ、ダラダラ生き続けるのもどうかと思うのだが、今の若者というか、人ってのは必ず無意味に死にたがるので、「死ぬくらいならつまんなくても生きろよ」という、死を望む者に対して真っ向からNOと言う部分は何を言いたいのか分からない『恋空』や『パイカリエンド』に比べれば、幾分マシだ。

そもそも『ネガチェン』は不死身のチェーンソー男と女子高生が戦うという話なのにもかかわらず、実話を元にした『恋空』よりもリアルで、これは演出ではなく、原作がよかったんかなぁとも思ったりする。『ネガチェン』は不死身のチェーンソー男だけ浮世離れしていて、実はそれ以外の描写はすべて、至って普通(普通よりもクサい)の日常である。もっと言えば『ネガチェン』は基本的に、どこかで見た事あるようなシーンばっかりだ(笑) ただ、それを日常の中で演出したんじゃおもしろくない。なので、不死身のチェーンソー男というありえないモノを登場させ、それを軸にメッセージをこめている。

だから言っちゃえば『ネガチェン』から不死身のチェーンソー男を取ると、まったくもってひねりのない話になる(笑)

話は平凡だが、カメラワークはなかなかおもしろい。妙にゆるやかに動くし、普通の何気ないシーンでもわざわざ長回しにしたり(トンカツ屋の前のくだりで)この手の映画にありがちな妙にスピーディーなカット割りは存在せず、意外に真面目にとってる。会話のシーンでもカメラを激しく動かすと言えば『ロボコップ』や『ダイハード』が有名だが、『ネガチェン』はそれをちょこっと抑えたくらいで、絵作りはウエルメイドである。時間経過のシーンではオーバーラップさせて、1発で分からせるし、1枚の絵にこだわってるのもあったし、

クライマックスでも、普通なら市原隼人関めぐみのシーンは、両者のカットバックで盛り上げるはずが、あえて、市原隼人のシーンだけ見せ切るという妙におもしろい演出で(ヘタなんかもしれんが)『SOW』のような極端なカットバックもないし、映像が残るというのも今までには無い感じなのかもしれん。

さて『ネガチェン』だが、オープニングは石井輝男作品のようにかっこいい。
太い筆字に時代劇のようなセット、そこで女子高生とチェーンソー男が戦おうとする。このチェーンソー男の造形は好きだ。非常にかっこいいと思う。役者を紹介するのも、役者のアップを静止させて、フィルムに傷を付けて、昔風にしてたり凝ってる。にらみを効かせ、いよいよバトルか!?という時にタイトルが出る『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』…ん?

なんだよ!冒頭では戦わないのかよ!

まぁ、ここまではいいだろう、なんだかんだ言って、戦うシーンがまた来た!

ん…こんなもんなのか…ん???

また戦わない!

おっ!今度は予告編で見た、あのプールのシーンだ!

ジャーンプ!水にどぼーん!


また戦わない!


そう、『ネガチェン』はなんとチェーンソー男とまったくバトルしない映画なのだ!

まぁ、一応、クライマックスでは戦って、それはかっちょいいんだけど、映画のコンセプトとして、やっぱり冒頭と中盤と終盤それぞれ1回ずつ、バトルシーンは入れた方がいいと思う。三隅研二も石井輝男もやっぱり始まって一発目でどーんとやるでしょ。あの感じが『ネガチェン』にはあってもいいと思う。実際、筆文字で日本映画らしい出だしなわけだし。

レザボア・ドッグス』がカッコ良かったのは、強盗映画にあるべき強奪シーンがないところだ。あれは低予算だったというのもあるが、映画の本編が仲間内の裏切り者探しなので、強奪シーンがなくてもサスペンスがあって成立する。だが『ネガチェン』は違う。確かにメインプロットはチェーンソー男を倒せば救われると思ってる女子高生とその娘を助ける事が生き甲斐だと感じる男の子の青春模様だ。だが、映画的快感を得られるのはやはりチェーンソー男と女子高生のバトルであって、そういう青春模様は他の映画でも観れるわけだから、そのバトルシーンはやっぱりなかったらだめでしょう!

クライマックスでは戦うと書いたが、確かにこのクライマックスはテンションが上がる。すさまじい戦闘シーンで、日本映画でこのレベルは高いと思う。屋根から落ちるカットがあったのだが、CGを使ったにしてもあれは上手い。というか、それ以前にCG合成がホントに上手く。ここまで来ると、ハリウッドの映像にも負けなくなるんじゃないかなぁ。

あと悪いところを挙げるならば、入れるべきシーンを入れてない。

主人公にはバイク事故で死んでしまった親友がいる。彼は主人公にとって追い越さなければいけない存在で、言ってみりゃライバルであり、尊敬してる人物。その大事なキャラクターがまったく出て来ない。主人公は何かをやりたいんだけど、熱くなる事にめんどくさい性格。ならば、その対比する相手として、もっとあの親友のエピソードなどをもっと描かなくてはいけない。ここは映画がどうであれ、入れるべきシーンである。あの親友とはどうなって仲良くなったのか?とかがまったくない。なのにもかかわらず、もう1人、なにやらかしても中途半端な親友がいて、この2人は一緒に描くべきだったのか?とも思う。恐らく原作ではキーマンになってるはずだが、映画では熱くなる親友、何事も中途半端な親友、さらになんにも熱くなれない主人公という3人のキャラを、同じ比率で描いてないので、その部分において、中途半端に感じてしまう。原作ではどうかわからないが、どうせだったら、どっちかはばっさりと無かった事にしてもいいと思った。ここは原作を読んでないので、ただの感想になるが、恐らく原作ではきっちりとそれぞれのキャラが描かれてるはずだ。じゃなかったら、それぞれの立場から幸せだとか日常とか善悪を語れない。

だが、これはあくまで私の意見であって、中途半端でもキャラを出すべきだという意見もあると思う。さらに、絶対に重要なキャラであろう、学校の担任も微妙な位置である。女子高生にはチェーンソー男という「死にたいと思った事を踏みとどまらせるメタファー」があるのだから。主人公には「熱くなってカッコ良く死ぬ事より、無気力でも生きてた方が幸せなメタファー」として、あのライバルや学校の先生はもっと描かれてもいいはずなのだ。まぁ、これまた原作を読んでみない事にはなんとも言えないのだけれど。

んで、不死身のチェーンソー男と戦う女子高生と主人公の関係もあんまし描かれない。もちろん、それはそれでありなのだけれど、誕生日プレゼントを渡すシーンがあり、そのシーンは後半で重要な伏線になるため、その伏線を活かすためにはもっと女子高生との関係を描いた方がいい。そもそも、主人公はダラダラとした日常を打破出来るかもしれないと思って、チェーンソー男にかかわるのを決めたのだから、相棒になるはずの女子高生とはもっと話すシーンがあっていいはずだ。

あともう1つ悪い点はギャグがすべり気味であるという事。単品ならば映画の箸休めとしてもいいだろうが、スピード感たっぷりのバトルシーンの腰を折るかのように、どうでもいいギャグがワンカットだけインサートされたりするので、そこで一気に腰砕けになるのだ。

と文句も多々あるが、これは私が求めてた方向性とは違ってただけの事で、これが好きだという人もいるはずである。実際、すごくいいセリフもたくさんある。
「有罪にならなければ、犯罪を犯してもいいの!?」とか「頼むオレを殺してくれぇぇ!!」とか、すごく刺さったりかっこいいセリフも出て来る。

ただ、やっぱり意味も無くチェーンソー男と戦う女子高生が見たかった。もっと、そっちよりもバカ映画にしてくれてもよかった。そうすればアメリカウケもすると思うのだ。(実際、アメリカで『片腕マシンガール』は予告編が大人気らしい、早く日本でも公開しろ!バカ!)まぁ、それは原作者が望まない事かもしれないなぁ、原作はもっともっとメッセージ性強いだろうし。

それにしても市原隼人は大分変わった。『リリイシュシュのすべて』の時はよかったんだけどなぁ。なんかさ、沢尻エリカとかぶる。結構普段とかやんちゃしてるらしいし、生意気っぽいし。演技もワンパターンになってきてるなぁ、頑張って欲しい。

最後に、『ネガチェン』はPG-12指定なのだが、なぜPG-12になったのか意味不明。『AVP2』は頭も吹っ飛ぶし、子供の腹からエイリアンが飛び出すし、顔面は溶けるから分かるんだけど、チェーンソーで誰かをぶった切るわけではないし、血は飛び散らないし、女子高生の制服が斬られて、素っ裸になるシーンすら無い。だから、どこがどういう風にPG-12なのかは知りたい。それが『ネガチェン』の最大の謎だ!

すげぇヒマだったので、町山智浩アメリカ映画特電を全部ダウンロードした。前に聞いたのは『映画秘宝』を創刊した時の話。これにはすごく感動した。という事は前に書いたのだけれどね。今まで聞こう聞こうと思ってたんだけど、ポッドキャストに登録してなかったんですねぇ。

アメリカ映画特電を聞きまくる。グラインドハウスとか『ロスト・ハイウェイ』とOJシンプソンの話とか、あとは『アポカリプト』だね、なんでラストに例のヤツらが来てるのかわかった。

ビデオ1に行き。『ショーン・オブ・ザ・デッド』と『ゴジラ対へドラ』をレンタル。

前者はとにかくいろんな人から観ろと言われるので借りて来た。後者は昨日買って来た映画秘宝にたまたま特集されてたので、なんか運命を感じるなぁ。

ゴジラ対ヘドラ』は2週間レンタルだから、もうちょっと後で観ようかね。

あういぇ。