ぼくが『アンストッパブル』に興奮した理由

ちょいとばかし遅ればせながら『アンストッパブル』鑑賞。トニー・スコットデンゼル・ワシントンという最強タッグの最新作。

グズな機関士の些細なミスから山ほど毒物を積んだ貨物列車が暴走。それを止めるためにベテランの機関士と新人の車掌が奮闘するというちょーシンプルなお話。とても映画的な話だなぁと思いきやなんと実話を元にしているのであった。

そのタイトル通り、最初から最後までアンストッパボー*1な痛快作で、何処かで聞いたことあるような内容ながらトニー・スコットが監督したことにより同工異曲な味わいになった。子供たちが鉄道会社を見学するために集まって来るだけなのにカメラはグリングリン旋回するという手の込みようで、このような凝った映像が全編にわたって繰り広げられる。細かくカットが割れまくったり、スローや早回しのモーション感覚など、とにかくガチャガチャチャカチャカした映像が矢継ぎ早に投入されるが、実話がベースということもあって発色はキツめでドシリと重い。

だが、このイカれたガチャガチャした映像スタイルが実に内容と噛み合っていた。列車が暴走しだしてから、映画は交通渋滞を起こしそうなほどに各部署でいろんなことが起こる。鉄道会社の役員や現場の人間はもちろんのこと、警察やその事故を見守る人々、テレビリポーター、しまいにゃ機関士の娘が働くフーターズまで登場する。これを脚本できっちり交通整理してるわけだが、列車暴走というメインの映像以外で巻き起こることも、このトニスコ演出によりはしゃいではしゃいではしゃぎまくり、管制室はおろか、馬がいるような田舎まで『クリムゾン・タイド』かと思うほどの緊迫感に溢れ、ウィットに富んだセリフの応酬も効いて映画はあっという間に終わる。

突然のフーターズ登場!アンストッパボー!


さて『アンストッパブル』だが、こうやって冷静に見れたのも前半までで、後半は久しぶりに映画であることを忘れて没頭してしまった。映画の中でハラハラしながら事故を見守っていた人たちと同様に心の底から「なんとかしてくれ」って思ったし、手に汗握ったし、全身が熱くなった。

なんでこの映画にだけそんなに興奮したのかというと、テレビ中継の映像が随所に差し込まれるからだ。

サム・ライミの『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』がそうだったのだが、野球中継の映像をそのまま映画で再現して使うと、現実感が増して物語に入り込みやすくなる。それと平行してケレン味溢れるカメラワークもバンバン出て来るため、野球中継の映像という日常的なものに映画的な興奮が加わるのだ。さらに実況アナウンサーが主人公と対戦相手の関係性から主人公の心情まで喋ってくれるので、「あいつとはライバルだから直球勝負しかないぜ」とかいう歯の浮くようなリアリティのない独り言を喋らせなくて済んだりする利点もあった。

アンストッパブル』でも後半はこの手法が遺憾なく発揮された。貨物列車を後ろから連結させるときもキャラクターの視点とテレビ中継っぽい画を織り交ぜて、さらにヘリに乗り込んだリポーターが「おーっと今、転倒しましたぁ!だいじょうぶなんでしょうかぁ!?」とたくみに観客のボルテージを上げていく。

映画のラスト、デンゼル・ワシントンの表情、所作をあえてニュースの中継映像で表現したところが本当によかった。あの画は映画の中で事故を見守ってる人々が見ている画と同じであって、フィクションでありながら映画の中の人々と映画自体を観ている観客が感動を共有する瞬間だ。しかも実話を元にしているというテロップがフィクションとノンフィクションの境目を曖昧にし、本当に「あの事故の顛末を我々も一緒に見ている」という映画でしか体験出来ない感動を呼ぶのであった。この感動は今スクリーンでしか体験出来ない貴重なものだと思う。こんな映画他にあるだろうか。傑作!必見!あういぇ。