おじいちゃん映画の極北『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』をDVDで再見した。

巨大な劇場を埋め尽くす観客、ステージには楽器が山ほど並べられている。観客は今か今かとステージを眺めながらざわついていた。

98年キューバ。街の人から「よっ!コンパイ・セクンド!」と声をかけられるほどの有名な老人(当時92歳)がでっかいオープンカーに乗り、ソフトなジャケットにハットを決め、葉巻をふかす。車は颯爽と住宅街をどんどん進んで行くが、男は急に車を停め、同じく葉巻を道端でふかしている初老の男にこう聞いた。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブはどこかな?」「今はもうないよ」「行くとしたら、その先だ、一軒家だよ」すると横から一人の女性が割り込むように話して来た。「通りの角よ、今は一軒家になってるわ」「あんたも行ったのか?」「昔はよくあそこで踊ったもんだわ」コンパイ・セクンドの周りにはどんどん人が集まって来る。収集がつかなくなった彼は何故か二日酔いに効くというブラック・スープのレシピを教えた。

時を同じくして世界遺産に認定されている街、ハバナサイドカーを付けたオートバイがやって来る。海岸線に打ち付ける波は激しく、時に道路を覆い尽くし、車に海水を浴びせかける。海が近いこともあってか、ヴィンテージカーの数々は錆び付き、建物はくすんでいる。建物はピンクから青、緑、黄色と絵に書いたようにカラフルだが、くすんでいることもあって、よく街になじんでいるようにも思えた。その風景に溶け込むように街行く人は皆、赤や紫、黄色などの服をまとい。オートバイに乗った二人もそれに合わせ、オレンジと緑というカラフルなシャツを着込む。オートバイの色も原色で目の覚めるような青だ。

オートバイがとあるレコーディングスタジオにたどり着く。オートバイに乗っていた男はライ・クーダー。そしてもう一人はその息子であった。ライがキューバにやって来たのは二年振り、アルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のレコーディング以来である。国内外ではまったく知られていなかったキューバ音楽のスタンダードナンバーを収録したこのアルバムは世界中で400万枚という売り上げを記録。ライ自身もベストワークだと語り、アルバムはグラミー賞を受賞する。

今回やって来たのはそのメンバーであるイブライム・フェレールのソロアルバムのレコーディングに参加するためであった。彼をキューバナット・キング・コールと賞賛しているライはその名を世界に広めたかった。イブライム・フェレールは後にゴリラズのアルバムにも参加することになる。

――――映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』はこのように始まる。伝説の老ミュージシャンを追ったヴィム・ヴェンダースのドキュメンタリーだが、この冒頭からも分かるように、キューバという街が持つ魅力、音楽、そしてそれにたずさわった人たちを見事にパッケージングしていき、さらに古老のミュージシャン達の人生を通して、キューバの歴史までも描いて行く。基本的にはアルバムの制作にライブ映像がインサートされ、ミュージシャンたちへのインタビューのみで構成されるというシンプルなもの。だが、そのシンプルさ故に魅力がダイレクトに伝わって来るのが特徴だ。

さて、この映画、当然っちゃ当然ながら、古老のミュージシャンを追っているので、出て来る人が全員おじいちゃんかおばあちゃんである。もう映画のほとんどがそれを占めると言ってもいいだろう。ライ・クーダーも白髪の長髪をなびかせ、その息子は若いだろうが、ハッキリ言えばその息子以外はおじいちゃんしか出て来ず、メンバーの中で一番若い、若手と呼ばれる人でさえ、1946年生まれである。つまりこの作品は「おじいちゃん映画の極北」でもあるのだ。

というわけで、キューバが持つ魅力に加えて、幸せそうなおじいちゃんたちを見るという意味でも必見。少子化/高齢化が進んでいって、社会問題になっているが、こういうおじいちゃんたちが街で溢れたら、幸せな気分になるだろうなぁと思った。あういぇ。

ブエナ☆ビスタ☆ソシアル☆クラブ(フィルム・テレシネ・バージョン) [DVD]

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ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

関連サイト

おじいちゃんが出て来る映画ばかりを紹介している映画ブログ「おじいちゃん映画」
http://senior-movie.mdma.boo.jp/