限界を越えて働きます!『救命士』

『救命士』をDVDで鑑賞。名作『タクシードライバー』の監督/脚本コンビによる作品。主演はなんとニコラス・ケイジ

救命士と聞くと、反射的に想像するのは、人を助けまくって、命の尊さを前面に押し出すような映画だと思うが、そこは『タクシードライバー』のコンビだけにそうはならない。

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』じゃないけど、主人公は救急救命士で、毎日毎日休む暇もなく、朝の6時まで人が死にそうだという連絡を受けて救急車をぶっ飛ばす。ところが、助かるのはほんの一握りで、あとは死ぬだけ。救命士というよりも、死を路上で看取る「おくりびと」と化している。もちろん死に直面するだけじゃなく、臭いのキツいホームレスや酔っぱらい、自殺しようと路上でわめいてるガキも説得して病院まで運ぶ。

かつて尾崎が“30分の休憩をとり、つめ込むだけのメシを食べて”と歌ったように。5分くらいの休憩で食べてるもんはフライドチキンかピザ。あげくコーヒーかビールだけでもいいから胃に入れさせてと運転しながらグビグビ飲んだりする。

助けられるはずだった少女の幻覚を見始めて、救急車で街中を走らせれば、ホントに死ぬべきクズが売春したり、ヤクを売ってたり、暴力を振るったりしている現実――――そして、ホントに助けなければならない人が目の前でどんどん死んでいくという人生の不条理にも毎日毎日直面していく。

こんな精神状態なので、遅刻や無断欠勤はあたり前、上司にも「お前の遅刻のせいで本部からクビにしろと言われてるんだ…」と言われて、「じゃあ!今からロッカー片付けて来ます!」と意気揚々とクビを喜んでも「バカヤロー!誰がクビにするって言った!人がたんねーんだよ!とっとと仕事しろ!」とクビにもさせてもらえない。

さて、仕事によってここまで人は追い込まれると一体どうなってしまうのか?ずばり『救命士』はそれを描いた映画である。

しかも主人公以外の救命士も全員限界寸前まで追い込まれていて、それをジョン・グッドマントム・サイズモア、ヴィング・ライムスという超実力派が演じる。麻薬にも酒にも基本的には溺れてなくて、究極の睡眠不足のせいで狂い始めるんだけど、それを早回しと爆音のロックンロールを組み合わせて演出している。

ニコラス・ケイジと言えば、狂ったハイテンションな演技だが、それがこの『救命士』にはピッタリ。当時結婚していたパトリシア・アークエットが一服の清涼剤としての役割を果たしている。つっても元ヤク中の役なんだけど。

あまり評判が良くないのは第二の『タクシードライバー』を求めてたからなんだろうなぁと思って、観始めたんだけど、なかなかよかった。確かにこれと言った見せ場はないけど、仕事のしすぎでぶっ壊れてく人間がたくさん出て来て、その様子がとにかく楽しい。『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』にイラっと来た方はおすすめ。つっても、ぼくは観てないんだけど。

救命士 [DVD]

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